チュウゴクアミガサハゴロモの産卵
少し前にチュウゴクアミガサハゴロモの観察記録を報告した。
● チュウゴクアミガサハゴロモの観察 ⇒
その記事の末尾に産卵痕と思われるものを追記したが、これは誤りであった。
お詫び申し上げるとともに、正真正銘の産卵シーンが観察できたので、改めて報告したい。
これは産卵に間違いない。
翅の一部が破れていて、そこから灰色のゼリー状のものが見えている。(ピンボケですみません)
これは蝋物質を分泌する器官なのか、それとも負傷した痕なのか?
角度を変えて観ようとしたときに、ちょっとした刺激で成虫は飛び去ってしまった。
それにしても、ていねいな仕事をしている。
産卵管は観ていないが、この盛り上がり方からするとけっこう太いのだろう。
この卵は夏の間に孵化して、秋には再び成虫になるのだろう。
しっかりした卵は、このあと順調に孵化し生育する確率が高そうだ。
そのうえ、枝の中に産み込んで、さらに蝋物質で覆い保護している。
チュウゴクアミガサハゴロモが急激に増えている理由の一端を見たような気がする。
次の成虫が出てきたら、はじめの写真の灰色のゼリー状の物質の謎について、改めて観察してみたい。
2025年7月21日、報告:自然観察大学 事務局 大野透
追加情報(2025年8月10日)
● チュウゴクアミガサハゴロモの孵化など ⇒
#
by sizenkansatu
| 2025-07-21 21:17
| 昆虫など
|
Comments(13)
ヤブガラシの観察-5 昆虫とのかかわり
ヤブガラシはたくさんの蜜を提供している。昆虫界で人気の花になっているようだ。
蜜が多いだけでなく開花期間が長く、花の少ない季節には貴重な蜜源なのだろう。
手元に写真のあった虫をまとめてみよう。
訪花昆虫
チョウやガは雄しべ・雌しべに触れずに吸蜜するようなので、受粉にはほとんど貢献しないものと思われる。
マメコガネは蜜をなめるだけでなく、花やつぼみ、葉もかじる。
肉食と植物食のテントウムシだが、両者とも蜜はお好きなようだ。
ヤブガラシを食べる虫
大形で長さ8~9cmにもなるので喰う量もすごいだろう。
ブドウスズメによく似たハネナガブドウスズメというのもいて、幼虫では見分けるのが難しいらしい。写真はどちらなのか不明。
先の写真のように成虫は花を吸蜜するが、幼虫はつぼみを喰う。
このときは真珠体も喰っていた。
参考:コブドウトリバの幼虫 ⇒
捕食者など
カニグモ科のガザミグモ(たぶん)。前の脚2対(4本)を広げて獲物待つ。
ヤブガラシの花には、集まる虫を狙って捕食者もやってくる。
↑の写真の左の脚を拡大して観よう。
(第1脚と第2脚が重なって見えている。)
この仲間には、写真のようにごみや食べかすを背負う種がある。
このごみは、外敵の目から逃れるためのカムフラージュであることがわかっているそうだ。
頭部の左上にある緑色の球体は他の虫の糞だろう。ほやほやの新鮮な糞を貼り付けたのだ。
クサカゲロウの幼虫は肉食性でアブラムシやハダニ類を喰うといわれる。
ヤブガラシの花の周辺ではクサカゲロウの幼虫を頻繁に見かけるのだが、餌となるアブラムシもハダニもほとんど見かけない。
獲物がいないのにも関わらず、どうしてヤブガラシにいるのか?
上の写真の緑の糞玉をつけたクサカゲロウを追いかけていたら、その答えの一つと思われる場面を観察できた。
真珠体を喰う虫
真珠体が小さくなっているではないか!
クサカゲロウの幼虫は真珠体の中の液体を吸っていたのである。
ということは…
ヤブガラシは真珠体で捕食性昆虫であるクサカゲロウを呼び寄せているのだろうか?
参考:ヤブガラシとノブドウの真珠体 ⇒
なお、クサカゲロウの幼虫の大あごは管状になっていて、これで挟むと同時に獲物に差し込んで体液を吸う。同じアミメカゲロウ目のウスバカゲロウの幼虫(アリジゴク)と同じ構造だ。
儚いといえばカゲロウだが、それと共通するイメージなのでクサカゲロウという名前になったのかもしれない。
ただし、カゲロウ目に対してクサカゲロウはアミメカゲロウ目。近縁の関係にはない。
2025年7月19日、報告:自然観察大学 事務局 大野透
#
by sizenkansatu
| 2025-07-19 20:40
| 植物と虫
|
Comments(10)
ヤブガラシの観察-4 性転換する花
花の緑色の部分が花弁で、まだ閉じていた時の形が残っている。開花したばかりなのだろう。
オレンジ色の部分は花盤(花托)と言われるもので、その縁に4本の雄しべがある。
左の花はすでに終わった花で、花盤は淡いピンク色。
ところで、写真(↑)の花は花弁が5、雄しべが5。
ヤブガラシは基本的に花弁も雄しべも4個だが、自然界ではこのようなこともふつうに観られる。
さて、見出しに記した性転換を観てみよう。
雄しべの時期(雄性期)
雄しべの葯にはたっぷりと花粉がついている。
花弁は反り返り、このあと雄しべとともに落下する。
ちょっとひと休み(中性期/無性期)
中性期では、雄しべを落としたあと、花盤はいったん淡いピンク色になる。ちょっとひと休みといった状態だ。
ついさっきまでの私は、右の花は正常な成長ができず、雌しべが未熟なまま終わってしまった花と考えていた。
ところが、じつはそうではなく、これが中性期であることを教えていただいた。
● 花色は3回変わる?~ヤブガラシ : 里山の四季 ⇒
アオイスミレさん、ありがとうございました。
雌しべの時期(雌性期)

雌しべの花柱が長く伸びてくる。雌しべが熟した状態。
いったんピンク色になった花盤は、また鮮やかなオレンジ色に戻る。
ヤブガラシの花は雄しべが先に熟し(雄性期)、そのあとで雌しべが熟す(雌性期)。
“雌雄異熟”と言って、自家受粉を避けるためのしくみだ。
ところで、上の写真ではあふれんばかりの蜜を出している。
雄性期と雌性期にそれぞれ蜜を分泌し、昆虫を誘う。
ヤブガラシやノブドウなどは、花は小さいが多量の蜜を分泌し、非常に人気が高い。
なお、花のすぐ下のところにある球体が真珠体だ。
さて、以上をまとめると次の4つの段階がある。
① 雄しべの時期(花盤はオレンジ色)② ひと休み(雄しべを落とす。花盤はピンク色)③ 雌しべの時期(雌しべが伸びる。花盤はオレンジ色)④ 終了(花盤はピンク色)
ということになる。
次は果実を期待したいところだが、残念ながら関東のヤブガラシは果実ができない。
関東のヤブガラシは3倍体なのがその理由で、果実ができないので地下茎からの繁殖をずっと続けていることになる。
なお、西日本のヤブガラシは2倍体で、よく結実するという。関東でも埋め立て地や造成地などでヤブガラシの果実を観たという話を聞くが、もしかすると土と一緒に西日本のヤブガラシが持ち込まれたのかもしれない。
…興奮しながら近づいてみると、どこかおかしい。
なんと、ヤブガラシと絡み合ったヤマノイモのむかごであった。
一気に心がしぼんでしまった。
さて、前述のようにヤブガラシの花では繁殖のための3つのしくみがある。
まとめると次のとおり。
●開花の時期をずらす●大量の蜜を分泌して訪花昆虫を誘う●雌雄異熟で自家受粉を避ける
これだけ懸命にくふうを凝らしているにもかかわらず、果実ができないとは…
なんということか!
次回はヤブガラシの花に来る昆虫の予定。
真珠体にかかわる新発見もあります。
2025年7月14日、報告:自然観察大学 事務局 大野透
#
by sizenkansatu
| 2025-07-14 22:28
| 植物
|
Comments(4)
ヤブガラシの観察-3 開花のしくみ
上の写真で鮮やかなオレンジ色のものが開花中で、花の終わったのは淡いピンク色、緑色はつぼみだ。
花序の開花順序
はじめに枝の先端が開花し、次は分かれた枝の先端が開花、それを繰り返す。
これはごく一般的な咲き方で、集散花序ではみなこの順序になる。
ヤブガラシの花序ではこの開花順序が比較的わかりやすい。
わかりやすい理由は、開花の間隔があいていることと、1個の花が終わるのが早いからだろう。
そのうえ、つる植物は茎を伸ばしながら、その途中で次々に花序をつけていく。花の時期は晩秋まで続く。
ヤブガラシは虫媒花だが、順番に長期間にわたって花を咲かせることで、受粉の確率を上げ、なおかつ自家受粉を避けるのだろう。上手なやり方だと思う。
ところで、上の写真でところどころに半透明の小さな球体がある。
“真珠体”あるいは“真珠腺”という魅力的な呼び名がある。
これについては以前に報告しているので、詳しい話はそちらをご覧いただきたい。
●ヤブガラシとノブドウの真珠体 ⇒
なお、真珠体についてはこのあとも登場してくるので覚えておいていただきたい。
2025年7月10日、報告:自然観察大学 事務局 大野透
#
by sizenkansatu
| 2025-07-12 23:01
| 植物
|
Comments(12)
ヤブガラシの観察-2 空振りした巻きひげ
前回( ⇒ )の続き。
つる植物は、成長が速いうえに藪で絡み合うので、野生では継続観察が難しい。
そんな中で空振りしたヤブガラシの継続観察ができた。
ほんの一例であるうえに写真がわかりにくいのだが、お付き合いいただきたい。
空振りしたあと、巻きひげは落ちる
周囲に絡まるものはない。
すでに①の巻きひげはすでに欠落。②は空回りをはじめている。
このあとも継続して観たかったのだが、残念ながら見失ってしまった。
この藪はカナムグラやクズ、アレチウリ、さらにはニガカシュウなどが勢力争いをしている。油断するとあっという間に埋もれてしまうのだ。
(この枝先は虫にかじられたのかもしれないが…)
ほかのつる植物も見てみよう
空振りした巻きひげは一人で巻き上がる。
ヤブガラシと同じだが、カラスウリでは頻繁に観ることができる。
写真でちょっとわかりにくいが、絡むものがなくなったので、方向転換して後戻りしている。
ヘクソカズラは巻きひげはなく、つる(茎)自体が巻きつくのだが、このタイプのつる植物は巻きつくものがないときに、このように後戻りすることが多いようだ。
つるどうしが絡む
つるどうしが絡み合って伸びている。
ツルマメもクズも、ヘクソカズラと同様につる自体が巻きつく。
つるが巻きつくタイプは、同種のつるどうしが絡むところをよく見かける。
一方、ヤブガラシのように巻きひげで絡むタイプは、他の植物には絡むが、同種の植物どうしが絡み合うところは観た記憶がない。
それでも、巻きついて締め上げることはないようだ。
絡む相手を間違って謝って頭を下げているようにも見える。
巻きひげで絡むつる植物が同じ種どうしで絡むことはないのか、これまでそのつもりで観てこなかったが、これから注目して検証していきたい。
2025年7月10日、報告:自然観察大学 事務局 大野透
#
by sizenkansatu
| 2025-07-10 18:02
| 植物
|
Comments(4)
| S | M | T | W | T | F | S |
| 1 | ||||||
| 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 |
| 9 | 10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 |
| 16 | 17 | 18 | 19 | 20 | 21 | 22 |
| 23 | 24 | 25 | 26 | 27 | 28 | 29 |
| 30 |
最新の記事
| ゴキヅルの観察 |
| at 2025-11-02 16:15 |
| オオイヌノフグリ ファンクラ.. |
| at 2025-10-25 18:32 |
| 江戸川べりの秋2025 江戸.. |
| at 2025-10-20 21:51 |
| 寄生植物 アメリカネナシカズ.. |
| at 2025-10-03 22:59 |
| アカメガシワの観察 ③雄株の.. |
| at 2025-09-20 18:36 |
最新のコメント
| ありがとうございます。正.. |
| by cflcfl at 13:59 |
| > cflcflさん .. |
| by sizenkansatu at 23:13 |
| この紺青、鮮やかで惚れ惚.. |
| by cflcfl at 14:16 |
| > kaya2018さん.. |
| by sizenkansatu at 23:22 |
| 葉の突起について アドバ.. |
| by kaya2018 at 17:21 |


















































