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自然観察大学ブログ

寄生植物 アメリカネナシカズラの観察

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アメリカネナシカズラはつるを伸ばしてほかの植物に絡みつき、寄生して栄養を得る。
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葉緑体はほとんどないので、全身が黄色っぽい。
ヒルガオ科ネナシカズラ属(Cuscuta属)で、北米原産の帰化植物という。
上の写真は何年か前に我孫子市で観たもので、セイタカアワダチソウやイネ科植物に絡んで寄生していた。


今年(2025年)7月末に江戸川べりでアメリカネナシカズラを見つけた。
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コンクリートのすき間に生えたコセンダングサに絡む。
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つるは、となりのヨモギにも伸びていた。

詳しく観察しよう。


寄生根を観る
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コセンダングサの茎に巻きついて食い込んだアメリカネナシカズラのつる(茎)。
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表面には多数のいぼがある。
このいぼは寄生根とは別物のようだが、単に絡んだ相手にがっちり食い込むためのものなのだろうか。

寄生根について図鑑類には“吸盤状”や“こぶ状の突起で先端は楔(くさび)形”などと記されているが、実物はどうだろうか。
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半透明の寄生根はこぶ状の突起で先端は楔形だ。
ところが、寄生根が張り付くとき…
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吸盤状になる。

寄生根は張り付くときに形を変えるようだ。
以前に観察したツタ(ナツヅタ)の付着根と同じような動きだ。
図鑑の記載はどちらも正しかったようだ。
参考:秋葉原で “ツタ” を観察  

寄生根が吸盤状になって張り付いたあと(と思う)、寄主植物(ここではコセンダングサ)の内部に侵入する。
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完全に癒着している。

アメリカネナシカズラは、芽生えたときには根があり、そのあと寄生するようになると根は枯れてなくなるという。つまり、宿主に絡んだつるが宙に浮くような状態ということ。


葉 ?

葉は退化して、小さな鱗片状という。
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これ(↑)が葉だと思われる。
おそらく何の役にも立っていないだろう。


花と果実を観る
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直径3mmほどの小さな花がびっしりとかたまってつく。
花冠が5裂して反り返るくらい開くのが特徴という。
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拡大するとなかなか美しい。宝石のようにきらきら光る。

雄しべが5個で、花冠から突き出る。
中心部に2個の花柱があるが、アメリカネナシカズラは、この花柱が離れてつく。
よく観ると、雄しべのつけ根のところに房状に細裂した鱗片がある。これがネナシカズラとの識別ポイントだという。

在来種のネナシカズラを、私は見たことがないのだが、記載によるネナシカズラとの識別点をまとめてみる。
ネナシカズラは、花序は総状になる。花冠が閉じぎみ。雄しべが花冠より突き出ることはない。2個の花柱は合着する。


アメリカネナシカズラの果実はこれ。(↓)
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果実はすでに熟しているが、花時の花冠、雄しべ、雌しべは、干からびた状態で残っている。
中に種子が2~4個ずつ。長径1.5-2mm。
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寄生植物に寄生するゾウムシ
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球形またはラグビーボールのようなものは虫えい(虫こぶ)。
ネナシカズラツルコブフシという。
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かなりの頻度で虫えいができている。
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虫えいを切って、中を観てみよう。
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虫えいの主であるマダラケシツブゾウムシの幼虫だろう。
別の虫えいを切ってみた。
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マダラケシツブゾウムシの蛹と思われる。
さらにもう一つ別の虫えいを切る。
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こちらもマダラケシツブゾウムシの蛹。


寄主植物をゾウムシが操る?

ところで、上の虫えいの断面の写真で、本来黄色のはずのアメリカネナシカズラが一部緑色になっている。
原因は、マダラケシツブゾウムシの寄生・虫えいの形成によって、葉緑体をほとんど喪失していたアメリカネナシカズラに葉緑体が増えているのだという。
それによって光合成をするようになり、栄養価が高くなっているというのだ。

マダラケシツブゾウムシがアメリカネナシカズラを操って、より良い食糧に改造している。
おどろくべき事実だ。

参考:News Release/働かない寄生植物が、働き者へと変化!?/富山大学・京都工芸繊維大学(PDF)  


マダラケシツブゾウムシはどこから来たのか?

マダラケシツブゾウムシはアメリカネナシカズラとともに海を渡ってきたのかと思って調べてみたら、じつは在来のゾウムシだった。
体長2.2~2.4mmとごく小さなゾウムシで、もともとは同じなかまのマメダオシに虫えいを作って寄生していたのが、帰化種であるアメリカネナシカズラにも寄生するようになったという。

マメダオシは絶滅危惧種だそうである。もしもそのままマメダオシだけに寄生していたら、このゾウムシも絶滅の危機にさらされていただろう。
マダラケシツブゾウムシにとって、アメリカネナシカズラの帰化は、まさしく天の恵みのような存在だったのではないだろうか。

外来の寄生植物を迎え撃つ、まるでウルトラ警備隊のようなゾウムシ。得意技は寄生植物の改造!
みんなで応援しよう。

参考:SAYABANE N.S.No.30/マダラケシツブゾウムシの寄主植物の再検討(PDF)  


余談ですが…

こうなると、マダラケシツブゾウムシの成虫が観たくなる。
虫えいを持ち帰り、ケースに入れてゾウムシが出てくるのを何日か待った。

すると、あろうことか…
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寄生蜂が出てきた。(ケース越しの写真で申し訳ない)

おそらくマダラケシツブゾウムシに寄生していたのだろう。
もしかすると、“風が吹くと桶屋が儲かる”のように、アメリカネナシカズラとともにこの寄生蜂も増えているのかも。

マダラケシツブゾウムシの成虫を観るために再度虫えいを採取してこようと思ったら、寄主植物(コセンダングサ、ヨモギ)とともに枯れてしまっていた。コンクリートのすき間なので、晴天が続いて乾燥してしまったのだろう。残念。
種子は落ちていると思うので、来シーズンにもう一度チャレンジしたい。


コンクリートのすき間に生える雑草と、それに寄生する外来のつる植物、その寄生植物に寄生して操るゾウムシ、さらにはそのゾウムシに寄生する蜂…
生きものの世界は奥深く、おもしろい。そして何より困難に満ちている。


2025年10月3日、報告:自然観察大学 事務局 大野透

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by sizenkansatu | 2025-10-03 22:59 | 植物と虫 | Comments(8)
Commented by cflcfl at 2025-10-04 11:56
この記事を読んだ後、何だか頭の中がいっぱいで、何を言おうか分からなくなってしまいました。まさに「風が吹けば桶屋が儲かる」といった感じですね!
ゾウムシがせっかくグリグリして深くまで穴を開けたのに、寄生蜂はその穴を狙ってすぐ後に中に卵を産みつけたのかな? 本当に厄介なやつですね!
家のすぐ近くに、名前の知らない蔓植物があります。その吸盤のようなものはツタのそのものとそっくりで(ちょうど今朝、壁に張り付いたその枯れた吸盤を見て驚いたばかりです)、今度はしっかり観察してみようと思います。
Commented by sizenkansatu at 2025-10-04 16:28
> cflcflさん
コメントありがとうございます。
自然界、生物界って、想像を超えてますよね。なかなか頭が追い付きません。
そちらのツタの吸盤もそのうち見せてください。

ところで、ゾウムシが産卵するときはまだ虫えいにはなっていなくて、細い茎のはずです。
だから、ぐりぐりはほんの少しでよいはずです。

寄生蜂はたぶん虫えいができてから産卵すると思います。
記事に掲載した写真でも、虫えいに針を突き立てています。
一匹だけ出てきたので、交尾はしてないはずなのに、もう産卵してるんですね。
Commented by cflcfl at 2025-10-04 19:08

すみません、シギゾウムシがナラメリンゴフシにグリグリ産卵する様子と混同して覚えていました。
そこで最初にお聞きしたいのは、以下の点です。
「『ナラメリンゴフシとシギゾウムシ』の記事にある『植物に寄生して虫えいをつくる蜂と、その蜂に寄生する蜂』という記述についてですが、この二番目の蜂(寄生蜂)が、ミヤマシギゾウムシに寄生する可能性はないでしょうか?」
しかしAIから「蜂と甲虫では寄生関係が成立しにくい」と指摘されました。
そこで改めてお聞きしますが、結局、今回の記事に出てくる寄生蜂は、いったい何に寄生しているのでしょうか?
Commented by sizenkansatu at 2025-10-04 22:31
> cflcflさん
おそらくですが、寄生蜂が寄生する相手(寄主)は種によっておおむね決まっていると思います。タマバチに寄生する寄生蜂が誤ってシギゾウムシに寄生することはないはずです。

今回の寄生蜂はマダラケシツブゾウムシに寄生するとみて間違いないでしょう。

それと、AIの「蜂と甲虫は寄生関係が成立しにくい」ということはないと思います。ハラナガツチバチというグループは、コガネムシ類の幼虫に寄生することが知られています。
AIは信用しすぎてはいけません。
Commented by cflcfl at 2025-10-04 23:34
親切に教えてくださり、ありがとうございます。
今日は「AIは信用しすぎてはいけません」ということをつくづく想い知らされました。
もう一つわからない点があるのですが(質問が多くて申し訳ありません)、『一匹だけ出てきたので、交尾はしてないはずなのに、もう産卵してるんですね』についてです。この寄生蜂の幼虫は虫癭を食べるわけがないでしょう?また、産卵したいからといって適当な場所に産卵するわけでもないでしょう?だとすると、この虫癭にはまだゾウムシの幼虫や蛹がいるはずでしょうか?
Commented by sizenkansatu at 2025-10-05 22:31
> cflcflさん
鋭い質問、ありがとうございます。
おっしゃるとおり、寄生蜂は虫えいそのものに寄生するのではなく、中の虫えい形成者(この場合はマダラケシツブゾウムシ)に寄生しますね。

寄生蜂が羽化して出てきた虫えいの中の形成者は、すでに寄生されて死亡しているはずです。
ですが、次の2つのケースが考えられます。
1. 虫えいの中には、まだ別の幼虫がいて、それに産卵する。
2. 虫えいの中にはもう幼虫はいないが、とりあえず産卵管を刺して探っている状態。

話は変わりますが、
虫えいの中にいる幼虫はまったく見えてないのに、寄生蜂は正確に幼虫の身体に産卵しているはずです。(実際には見てないのでわかりませんが…)
どうして寄生蜂は瞬時に、正確に、寄生する相手を探し当てるのか、不思議です。
虫えい内部で動く寄主の微弱な振動かなにかを、触角で察知するのでしょうか?
Commented by cflcfl at 2025-10-06 10:46
寄生バエは産卵前に、産卵管を宿主体内に刺し入れることが確認されています。この行動は単なる産卵ではなく、どうやら探査と評価のプロセスでもあるようです。産卵するか放棄するか、一つ産むか複数産むか、雄卵を産むか雌卵を産むか——そんな選択が行われているらしいです。
知れば知るほど、生物界の不思議には本当に驚かされますね!

台風が過ぎ去り、今朝ようやく外出できるようになりました。こちらのツタの写真をご覧ください。
https://kunchong.exblog.jp/244648864/
Commented by sizenkansatu at 2025-10-06 17:51
> cflcflさん
コメントありがとうございます。
そうですか。寄生蜂の産卵管はいろいろな機能が集約されているんですね。
勉強になりました。
ありがとうございました。

ツタの写真拝見しました。
そちらにコメントさせていただきました。

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