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自然観察大学ブログ

ヤマボウシとハナミズキ 冬芽の違い 前編

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ヤマボウシの花は5月ごろから咲く。
漢字では山法師だそうだが、なるほど白い頭巾の裾を広げた、時代劇の僧兵のようでもある。
ヤマボウシとハナミズキ 冬芽の違い 前編_d0163696_11061977.jpg
山野に自生するが、公園樹や街路樹などにもよく植栽されている。

白い花弁のよう見えるのは総苞片で、ヤマボウシの花では先端まできれいに広がるのがポイントだ。
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中央に球状の花序があって、ほんとうの花は小さい。
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この写真(↑)では半分ほどがつぼみだ。

ハナミズキの花(↓)はヤマボウシよりも早く、4月後半から咲きはじめる。
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総苞片の先のほうが萎れたようにへこんで茶褐色になっている。
写真では総苞片は開いているが、中央の小花はまだつぼみである。
総苞片の先端は初めからへこんで茶褐色だということになる。

ヤマボウシもハナミズキも総苞片の色や形はさまざまだが、先端がピンと伸びているかへこんでいるかで両種を見分けることができる。
この総苞片の違いはどうして起こるのか。冬芽の観察から推測してみた。

めんどくさい話で申し訳ないが、お付き合いいただければありがたい。

なお、ヤマボウシのなかまについては八田洋章先生の講演のレポートをご覧いただきたい。
●ヤマボウシの自然誌とその自生地探訪/自然観察大学講習会レポート  
樹木に関して智の泉のような八田先生だが、ヤマボウシ類については格別な興味を持って観察しておられる。
この講演では、ヤマボウシのなかまの冬芽の違いについても系統だてて紹介いただいたが、このとき時間が押していたこともあって、消化不良気味であった。

私としては、『樹木博士入門』(小幡和男ら,全農教)の取材に際し、ヤマボウシとハナミズキのそれぞれの冬芽の展開を観てきたのだが、じつは、上記の講演をうかがって以来、注目して観察してきたのである。(一部の写真は『樹木博士入門』と共通して掲載)


冬芽をくらべる

はじめにクイズ。
ヤマボウシとハナミズキ 冬芽の違い 前編_d0163696_11072805.jpg
上の二つの冬芽はそれぞれ何か、おわかりだろうか。
わかった方は、ふだんからよく観察しておられる方だと思う。

正解の前に、まずヤマボウシのなかまの冬芽(花芽)の基本的なつくりを模式図で観てみよう。
ヤマボウシとハナミズキ 冬芽の違い 前編_d0163696_11074553.jpg
茶褐色の芽鱗の内側に総苞片があり、その中に花序のもとがある。
芽鱗と総苞片の間にはふつう2個の腋芽があり、これはシュート(枝葉など)になる。
ヤマボウシとハナミズキはどちらもミズキ科ミズキ属(Cornus属)で、ハナミズキにはアメリカヤマボウシという別名もある。両種の基本的な冬芽のつくりは同じだ。
なお、図は前述の講演での八田先生の図を改変したもので、冬芽の先端がとがってないのは作図の都合であり、ご容赦いただきたい。

それでは正解。
左がヤマボウシ、右はハナミズキ。
それぞれの各部位の名称を表記してみよう。
ヤマボウシとハナミズキ 冬芽の違い 前編_d0163696_11075517.jpg
両種の冬芽は、もとは同じつくりなのだが、ハナミズキでは越冬前に芽鱗が開き、総苞片に包まれた花序が伸びている。それでヤマボウシとは違った姿になるのだ。
前述の八田先生の講演で、ハナミズキの冬芽は1/3当年に成長し、翌年残りの2/3成長して開花するとしておられた。


ハナミズキの冬芽の動き

ハナミズキの冬芽の動きを詳しく観てみよう。
これは7月半ばに撮影したハナミズキの冬芽。(↓)
ヤマボウシとハナミズキ 冬芽の違い 前編_d0163696_11085412.jpg
夏の間に、すでに芽鱗が開き、先端に見えるのは総苞片に包まれた花序だ。
これがさらに伸びて、前掲の冬越しの冬芽になる。

ちなみに、3月初めにハナミズキの冬芽を切ってみたのがこれ。(↓)
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中には小さなつぼみのもとがぎっしり詰まっている。

両種の冬芽(花芽)の違いを模式図でまとめてみよう。
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ヤマボウシの冬芽は、できたときのままの、芽鱗に包まれた状態で越冬する。(図は前述の八田先生のものを改変)
ハナミズキのほうは夏の間に芽鱗が開いて、花序が伸び出した状態で越冬する。
なお、芽鱗と総苞片の間にあるのは腋芽で、のちに伸びてシュートになる。


ヤマボウシの冬芽の動き

ヤマボウシは4月後半から冬芽が動き出し、5月ごろに開花する。
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※ 一つの冬芽を追いかけたものではなく、撮影倍率も適宜変更している。(“てきとう”ということです。すみません)

上の③と④を抜き出してみよう。
ヤマボウシとハナミズキ 冬芽の違い 前編_d0163696_11093713.jpg
一つの冬芽から花序と総苞片、2個のシュートが出てきたことがわかる。
いっせいに出てくるが、シュートがやや先行して伸び、次に花序、最後は総苞片という順序のようだ。

これは⑤の拡大。(↓)
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ヤマボウシの総苞片が伸びはじめたところ。
芽鱗で守られた状態で越冬するので、先端まできれいに伸びるのだと思われる。


ハナミズキの冬芽の展開

ハナミズキでは、先に記したように夏の間に花序が伸び、総苞片が花序を包んだ状態で越冬する。
ヤマボウシとハナミズキ 冬芽の違い 前編_d0163696_11101056.jpg
そして翌春4月ころに総苞片が展開する。
と同時に、2個の腋芽(シュート)が伸びる。
総苞片の先端は、冬越しのときに褐色になったのがそのまま伸びたのであり、それが傷のようにへこんでいるものと思われる。

おまけで、ちょっとイレギュラーなハナミズキ。(↓)
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総苞片が丸まっている中で花が咲いている。総苞片が開くのに手間取ったようで、花のほうが待ちきれなかったというところだろうか。
なお、このように総苞片の赤色のものもふつうにある。


2024年2月6日、報告:自然観察大学 事務局 大野透




by sizenkansatu | 2024-02-06 11:38 | 植物 | Comments(0)

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