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自然観察大学ブログ

サネカズラの不思議な花

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サネカズラ(別名ビナンカズラ)は、11月ころになると果実が美しく熟し、林縁などでよく目立つ。
サネカズラの不思議な花_d0163696_23161823.jpg
つる性の常緑樹で、竹垣にからませたり岩に這わせるなどして庭園樹としても人気のようだ。

花は7月半ばから9月まで次々に咲く。
しかし、下向きに葉の陰に隠れるように咲き、しかも花弁をあまり開かないので、見のがしてしまうことが多いだろう。

雄花と雌花があって、どちらも不思議なつくりをしている。
つる植物は一般に花期が長いので、繰り返し観察し直すことができるのがありがたい。
詳しく観察したのでご報告したい。


雄花の観察

雄花を下から見上げるようにして撮った。
サネカズラの不思議な花_d0163696_23162672.jpg
花弁とがく片は同じ形で区別がなく(あわせて花被片という)、その数は8~17枚という。
アバウトなところが、なんとも好ましい。
なお、写真写りのために花被を大きく開いた花を選んだが、ふつうは半開きのような中途半端な状態の花が多い。

さて、気になる中心の球形のものは何なのか?
調べてみると、多数の雄しべが集まったものだという。(↓)
サネカズラの不思議な花_d0163696_23163417.jpg
雄しべと言われても、どこがどうなっているのか…
えんじ色の平たい六角形の面が雄しべの花糸の先端で、その両側で花粉を出しているのが葯。
隣りの葯と合わせて唇のように観える。

花糸の先端がこんなに大きいことに驚く。
こんな雄しべは観たことがないが、花糸の先端を示す「葯隔」という用語がある。「葯の間にあって隔てる」という意味の名称と思われる。
六角形は、すき間なくびっしり並ぶとこうなるということであろう。

さて、球体を割って横から雄しべを観たのがこれ。(↓)
サネカズラの不思議な花_d0163696_23164269.jpg
雄しべの花糸はつけ根のほう(画面の上方)へ向かって徐々にすぼまり、透明になる。
全体は下向きに開いた扇形のようだ。
わかりにくいので、写真の中に説明書きを記入した。
(めんどうならパスしてください)


雌花の観察

雄花と同様に下向きに開く花を下から見上げた形。(↓)
サネカズラの不思議な花_d0163696_23165015.jpg
雄花よりも二回りぐらい小さく、花被片はさらに閉じぎみ。
個体によっては花被片がほとんど開かない花もある。
中心部の球形のものは雌しべの集まりで、雄しべと同じつくりだ。
花被片の一部をはずして横から観たところ。(↓)
サネカズラの不思議な花_d0163696_23170146.jpg
ぎっしり詰まって多角形状になっているのは雌しべの子房で、その隙間から半透明の柱頭が突き出ている。
これも球体を割って横から観てみよう。(↓)
サネカズラの不思議な花_d0163696_23172703.jpg
子房の間に雌しべが見える。
画面左の2個では、子房の側面(右の面)に沿って雌しべがあることがわかる。

ふつうの花は子房の先に雌しべがつくものと思っていたが、サネカズラの雌花はまったく異なる不思議な形をしていた。

これをふまえてもう一度果実を観てみよう。
サネカズラの不思議な花_d0163696_23173778.jpg
表面に一条のかすり状の痕があるが、おそらくこれが雌しべの痕と思われる。

サネカズラの雄花と雌花については、次で詳細な写真が掲載されているのでご覧いただきたい。
● 松江の花図鑑/サネカズラ  

サネカズラの花でもう一つ不思議なのは、受粉しにくいと思われる構造だ。
下向きの小さな花で、花被もあまり開くことがない。虫を呼ぶための蜜を出すようすもない。
少なくとも私はこれまで、サネカズラを訪花している昆虫を観たことはない。
そのうえ、一つの花の開花期間は短いように思われる。雌花では柱頭が萎れた状態のものが多いし、ほとんど花弁を開かないままに花被片を落としてしまう雌花も観られる。
それでも、立派な果実が鮮やかに熟しているのは、何か秘密があるのだろうか。


サネカズラの雌雄

サネカズラの雌雄についての記載を見ると、「雌雄異株または同株」「ふつう雌雄異株だが、まれに雌雄同株」などと記されている。

雌雄同株の例を確認した。
サネカズラの不思議な花_d0163696_23175117.jpg
画面の右2つは雄花で、画面左(枝先の方)は雌花だ。雌花はすでに花被片がほとんど落ちている。

つる植物で雌雄異株を確認することは非常に難しい。
雄花、雌花を確認するのはたやすいが、野外ではふつう複数の個体がからみ合って生えているので、一つずつたどって確認するのに困難を極める。
ずいぶん前にカナムグラの雌雄異株を確認しようとして、茎葉のとげに傷つきながら血まみれになって悪戦苦闘した記憶がある。このときは結局、わからないままあきらめた。


もう一つ余談

アオバハゴロモはカメムシ目の昆虫で、成虫・幼虫ともに植物の茎に口針を刺して吸汁する。
いろいろな植物で見かけるが、サネカズラをとくに好んで吸汁するようだ。
サネカズラの不思議な花_d0163696_23181076.jpg
サネカズラの花の季節は、アオバハゴロモが幼虫から成虫へ成長する時期でもある。
林縁のサネカズラの茎には、アオバハゴロモがびっしり張り付いていることが多い。
クモが網を張ることも多く、サネカズラの花を探そうという気持ちにならないのかもしれない。
来シーズンは、みなさん嫌がらずにサネカズラを観ていただきたい。

ところで、
サネカズラの別名のビナンカズラは美男蔓で、茎を短く切って水に浸しておくとぬるぬるした液体になって、これを整髪に用いたという。
サネカズラを吸汁したアオバハゴロモはどうなのだろう。
たしかによく観ると美しい姿をしているが…

2023年9月21日、報告:自然観察大学 事務局 大野透




by sizenkansatu | 2023-09-21 23:28 | 植物 | Comments(4)
Commented by nyanko3773 at 2023-09-22 08:14
おはようございます(*^-^*)

へぇ~がいっぱいです♪
この実は見たことあるような気がするのですが…
花は間違いなく見てないですね
ほぼ開くことなく控えめでありながら
しっかり実をつけられる不思議さ。
え、アオバハゴロモが好む!?
じゃあ私、見て撮っていたかもです(笑)
秋に向けて実を探してキョロキョロしますよ(⌒∇⌒)
Commented by sizenkansatu at 2023-09-22 13:00
> nyanko3773さん
コメントありがとうございます。
果実は11月ごろに赤くなるようです。
いまは緑色の果実が観られますが、花もまだあるのではないかと思います。
(つい先日まではつぼみがありました)
不思議な花をぜひ実感してください。
Commented by miyabiflower at 2023-09-22 14:05
サネカズラの緑色と赤の実は見たことがありますが
花は気づいたことがありませんでした。
雄花と雌花の区別はすぐにつきそうですね。
アオバハゴロモがびっしり茎についていたら
ちょっとコワイと思ってしまいますが
写真で見るころんとした粉を吹いたような姿はかわいいですね。
整髪料は試していないのですね?
草の匂いがするのでしょうか・・・。
気になります^^
Commented by sizenkansatu at 2023-09-22 19:22
> miyabiflowerさん
コメントありがとうございます。
サネカズラの花はぜひ探してみてください。
人家の垣根なら、アオバハゴロモはいないのではないでしょうか。
それとも、もしも虫がいたら、枝をゆするとワッと跳んで逃げてくれるかもしれません。
(それはそれで嫌でしょうか?)

とろとろ、ぬるぬるの液体は見ましたが、においはなかったと思います。
整髪するほど髪がないので使ってません ^^;

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