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自然観察大学ブログ

ヒメウズの観察

4月10日、ヒメウズを観た。(今ごろすみません)
ヒメウズの観察_d0163696_19450161.jpg
じつは、ヒメウズは写真でしか見たことがなくて、いわば憧れの花だった。
素直にうれしかったのである。

しかしながら、この時は自然観察大学の観察会の真っ最中であった。
桜堤の周辺で、この日の観察テーマである各種のサクラを観ている、その足元にヒメウズがあったのだ。
● 自然観察大学HP2022年度ミニ観察会レポート  
「① 樹木の“形とくらし”観察」をご覧ください。

そんなわけで、このときは写真を撮ることができず、以降何度か現地水元公園に足を運ぶことになった。その観察記録を紹介させていただこう。


ヒメウズの花

改めまして、まずはヒメウズの花。
前回から半月後の再訪だが、まだまだ盛んに花をつけていた。
ヒメウズの観察_d0163696_19450939.jpg
可憐な花は、外側の白い5弁はがくで、内側にある丸い黄色がかったほうが花弁だという。
5枚の花弁が折り重なるようにして筒状になっている。

ちなみに、この形はなんとなくスイセンに似ているが、スイセンでは内側の丸いのは副花冠で、外側の大きいのが花弁とがくなので、構造はまったく違う。
ヒメウズの花は直径5mmほどと、スイセンにくらべるとかなり小さい。

ヒメウズの花の特徴はこれ ↓
ヒメウズの観察_d0163696_19451728.jpg
花弁のつけ根の一部が、がくのすき間から後方に突き出ている。
距(きょ)だ。
距は、ポケットのようなところに蜜を溜め、虫を呼ぶのだという。
ヒメウズの距はかなり小さい。そのように言われないと見逃してしまうほどだ。

一つだけ花を切らせていただいた。
ヒメウズの観察_d0163696_19452501.jpg
これ(↑)はがくを1枚はずしたところ。
花弁とがくの位置関係がよくわかった。

次は花弁をはずす。(↓)
ヒメウズの観察_d0163696_19453261.jpg
雌しべの子房はかなりしっかりしている。
ネットで見ると雌しべは2‐5個というものと、2-4個と記したものがあった。

比較のためにオダマキの花を観てみよう。(鉢植えのミヤマオダマキ)
ヒメウズの観察_d0163696_19454233.jpg
がくを大きく広げ、花弁は丸い筒状になるところはヒメウズと同じだ。
ヒメウズの観察_d0163696_19454829.jpg
大きく違うのは距だ。
オダマキはがくのすき間から長大な距を後方に突き出している。

ヒメウズはキンポウゲ科ヒメウズ属。ヒメウズ属は世界的にもヒメウズ一種のみだそうである。
しかし、オダマキ属とする考えもあるそうだ。
ヒメウズ属が Semiaquilegia、オダマキ属が Aquilegia で、属名も似ている。

ちなみに、ヒメウズを漢字で書くと姫烏頭だが、トリカブトには似ていない。


ヒメウズの果実と種子

次は果実。
ヒメウズの観察_d0163696_19455463.jpg
子房がそのまま大きくなった感じで、花が終わるとすぐにこうなるようだ。
私の観たところでは、果実は3個または4個、まれに5個であった。
この日、多数の果実が見られたものの、まだ熟してはいない。

ヒメウズの全身はこんな感じ。
ヒメウズの観察_d0163696_19460364.jpg
ひょろひょろと頼りなく花も小さいので、草むらにまぎれている。絵にならないことこの上なしである。
普段の目線で歩いていると、つい見過ごしてしまいそうな目立たない姿だ。
花の期間は長く、しばらくの間花と果実を同時に観ることができた。

なんとか好いところを探して撮ったのがこれ。(↓)
ヒメウズの観察_d0163696_19461004.jpg
茎の上部で枝分かれし、切れ込みの深い葉が対生。花は先端で下向きに垂れる。

じつは再訪したこの日、ヒメウズの群落は草刈りをされてしまっていた。
初めはけっこう広いエリアに点々と広がっていたのだが、そのほとんどが刈り取られてしまっていたのである。

残されたヒメウズを追いかけて、さらに半月後の5月初め。
ヒメウズの観察_d0163696_19461746.jpg
果実が熟していた。
しかしこの撮影が難題であった。
ヒメウズの茎が細長くてひ弱な上に、周りの細い草が絡み合っているので、うっかり近づくとすぐに種子を散らしてしまうのだ。

しかたがないので現地で撮るのをあきらめて、はじける前の果実を少しだけ採集して帰った。
ところが、水に挿しておいたのが悪かったのか、いくら待っても果実は裂開しない。

しかたがないので、さらに半月後の5月半ば過ぎに現地に行ってみると、これが予想通り、稔りの時期であった。
ヒメウズの観察_d0163696_19462615.jpg
今度は慎重に種子をこぼさないように近づいた。

こちらの果実は5個。
ヒメウズの観察_d0163696_19463209.jpg
ほとんど動かないで撮っているので、やぶ蚊にぼこぼこにされたが、ここは我慢。
ヒメウズの観察_d0163696_19463960.jpg
種子は径1mmほどと小さい。


ヒメウズのまとめ

ヒメウズがどんな暮らしをするのか、ネットで調べたことをまとめておこう。
* 落葉樹林の林縁など半日陰のようなところに生育する。
* 春に花を咲かせて種子を散らす。
* そのあと、落葉樹の葉が茂る夏には地上部が枯れる。
* 地下に塊茎をつくり、葉樹が葉を落とす秋に芽を出す。
* 花をつけるには2‐3年以上を要する。(正確にはわかっていないらしい)
ヒメウズの観察_d0163696_19464648.jpg
ヒメウズの観察_d0163696_19465344.jpg

落葉樹の下で適度に草刈りされるような環境が、ヒメウズにとっては理想的なのかもしれない。
春から初夏だけの活動で、暑い夏は木陰の地下で寝て過ごし、数年かけて花をつける。
まさしくスプリングエフェメラル。
なんと優雅な生活だろう。


水元公園のヒメウズの由来

ここ水元公園のヒメウズはどこから来たのだろう。
公園の一帯はかつて河川の氾濫に悩まされた低湿地を、江戸時代から整備され埋め立てられたものだそうだ。
広大な公園はすべて埋め立て地なので、ここのヒメウズも土と一緒にどこかから持ち込まれたものなのかもしれない。
ヒメウズはひ弱そうな外見に似合わず、前述の条件に合えば旺盛な繁殖をするらしいのだ。

しかし、ヒメウズのあったすぐ近くの桜堤は江戸期からそのまま残っているものらしい。
ということは、もしかしたらこのヒメウズは、当時の桜堤から代を重ねてきた由緒正しいものなのかもしれないではないか。
それを思うと、愛おしさも一入である。

2022年6月8日、報告:自然観察大学 事務局O




by sizenkansatu | 2022-06-08 19:56 | 植物 | Comments(12)
Commented by mrtnsz at 2022-06-08 23:08
今晩は。
以前、優しく詳しいご指導頂きまして有難う御座いました。
お陰様で、その後、段々と花、植物に興味を覚えるようになりました。
sizewnkannsatuさんのご指導の後、自然風さんからもご指導を頂き、その後、花のブロ友も増えてきまして、段々と花に嵌って行っています。
皆様のブログの記事は素晴らしく、特に、sizenkannsatuさんの記事は専門的な学術的で素晴らしいです。
系統、漢字名、一般名、専門名など、その上、花弁、おしべ、めしべ、種ほか、参考書より詳しく、理解しやすい記事です。
読んでいて段々と面白くなってきました。
そのお礼ではないですが、コメントさせて頂きました。
ご返事は結構ですので、今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
Commented by shizenkaze at 2022-06-08 23:16
ヒメウズは私の祖母の代からお世話になっていたお寺の境内に毎年花を咲かせています・・・・・
ヒメウズですから植えたものじゃなく一人生えのものだと思いますが境内の彼方此方にたくさん見られるので毎年枝垂桜を見に行くときに撮っていますがヒメウズにカメラを向けているのは私位なものなので何を撮っているのかと不思議な目で見られますよ・・・・・(*´∇`*)
Commented by verysmallcreature at 2022-06-08 23:52
水元公園って埋立地なんですか!
すごく広いのでびっくりです。
Commented by sizenkansatu at 2022-06-09 09:07
> mrtnszさん
コメントありがとうございます。
お褒めの言葉をいただき、光栄です。
私自身は素人なのですが、自然観察大学に専門の方々がおられて、門前の小僧として勉強させてもらっています。(小僧ではありませんが、頭髪に関しては少し似ています)
鳥は苦手なのですが、貴ブログを見て勉強させていただいています。
今後ともよろしくお願いいたします。
Commented by sizenkansatu at 2022-06-09 09:16
> shizenkazeさん
コメントありがとうございます。
そうなんですよね。
私も満開の桜の下でキュウリグサを撮っていたりして、不審に思われます。
桜はたしかにきれいですが、小さくて地味な花を拡大すると、桜に負けないほどきれいでびっくりして、うれしくなってしまいます。
私はどうもひねくれものなのかもしれません。
Commented by sizenkansatu at 2022-06-09 09:21
> verysmallcreatureさん
コメントありがとうございます。
そうなんです。驚きですよね。
奥まったところの野鳥観察舎の並ぶあたりは、まるでジャングルのようになっていますよね。
わずか数十年であのようになったわけで、自然の、植物の力には驚きしかありませんね。
Commented by wabisuke-miyake at 2022-06-09 14:20
ヒメウズ好きです
うちの庭でも咲いてくれます
花がほんとにちいさいので
私のタブレットではなかなか
きれいに撮れないので
こんなに詳しく観察できて感動です

ありがとうございました~(^^)
Commented by sizenkansatu at 2022-06-09 19:28
> wabisuke-miyakeさん
コメントありがとうございます。
ヒメウズが庭にあるんですか!
うらやましいです。

一部では絶滅危惧種に指定されているところもあるようですが、
昔のままで攪乱されてない所ではヒメウズが見られるようです。
皇居の周りとか、玉川上水とか…

たねを撒いてから何年で花をつけるのか、ぜひやってみてください。
Commented by miyabiflower at 2022-06-10 17:37
ヒメウズの花は今年初めてみつけました。
里山で足元に咲いていて、通り過ぎるところでしたが
よくよく見たら知らない花でした。
図鑑を1ページずつ探してやっとわかった花です。
小さくて写真が撮れなかったのですが、こちらでとてもきれいな写真を見られて感激です!
実がトリカブトの実に似ているそうですね。
咲いていた場所をしっかり覚えていなかったので、実を見ることができなかったのですが、
それもこちらで見ることができました。
ありがとうございます^^

記事ランキングにある「カイガラムシとテントウムシ」の記事の
1枚目の写真と同じ光景を 去年実家の梅の木で見ました。
あまりはっきり見たくなかったので遠目でしたが・・・。
木にびっしりとついているものがカイガラムシだと思っていましたが
テントウムシのサナギだったのですね。
アカホシテントウも葉っぱにたくさんいました。
毎年ではないので、今年どうなるかわかりませんが・・・。
今度行ったら、また遠目に見てこようと思います。
あまりはっきり見たくはないような・・・^^
Commented by sizenkansatu at 2022-06-10 21:43
> miyabiflowerさん
コメントありがとうございます。
ヒメウズは私も今年初めて観察して、感激しました。
この記事のあともう一度行ってみたのですが(しつこい)、
もう種を散らした残骸がわずかに残るだけでした。
また来春のおたのしみです。

アカホシテントウの記事を見ていただき、ありがとうございます。
たしかに、普通の方はとげとげ(幼虫の脱皮殻)を見るとぞっとするかもしれませんね。
それがアカホシテントウの生き残り戦略かも…

なお、アカホシテントウの幼虫は次でご覧いただけます。
https://sizenkan.exblog.jp/13640887/
よろしければ、遠くから見てください。
Commented by miyabiflower at 2022-06-10 23:52
こんばんは。
勇気を出して、というより怖いもの見たさでアカホシテントウの幼虫を見ました・・・。
幼虫は凄すぎて逆にじっと見てしまいました。
まさにウルトラ怪獣も真っ青ですね^^
トゲの枝分かれ、というのでしょうか、見事です。
刺したら抜けないため?と思いましたが、刺さないのですね。ちょっと安心しました。
幼虫のことを教えていただいてよかったですよ
梅の木を見上げて、これが動いていたらかなりコワイですから。
でも、遭遇する可能性はありますね。
とりあえずは心構えができました。
ありがとうございます^^
Commented by sizenkansatu at 2022-06-11 06:37
> miyabiflowerさん
アカホシテントウの記事を見ていただき、ありがとうございます。
実物は小さいからかわいいのですが、これがもしフットボールくらいの大きさだったら怖いかも。
なんでこんな形になってしまったのか、考えると興味がつきません。

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