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自然観察大学ブログ

ツバキとサザンカと散り椿

『散り椿』という映画がある。
葉室麟氏の同名の小説を原作とした映画で、2018年公開。監督は木村大作氏。かつて黒澤映画で撮影助手をつとめ、今は徹底して映像にこだわるカメラマン出身の監督として知られている。
先日、この『散り椿』をテレビで観た。いまさらではあるが、それについて話をさせていただく。
文字ばかりの記事で恐縮だが、しばしお付き合いいただけるとありがたい。

さて、この映画の最も重要なシーンは、瓜生新兵衛(岡田准一)と榊原采女(西島秀俊)の二人がツバキの散る庭で対決するシーンである。
ツバキとサザンカと散り椿_d0163696_22022037.jpg
さて、みなさんは上(↑)の画像を見て“あれっ”と思ったに違いない。
ツバキといえば花弁がばらばらに散ることはなく、まとまってぽとりと落ちるはずではないか。ばらばらに散るのはサザンカだ。

※ 上の画像はネット上で多数見られたので転載OKと考えました。もしも問題がある場合はご指摘お願いします。


ツバキとサザンカのおさらい

ツバキとサザンカの違いについて、『樹木博士入門』を参考におさらいをしておこう。

これがヤブツバキの花。(↓)
ツバキとサザンカと散り椿_d0163696_22022812.jpg
花弁は閉じ気味で、水平に開くことはない。雄しべは筒状に並ぶ。
花弁と雄しべはつけ根のところで合着していて、散るときはまとまってぽとりと落ちる。
ツバキとサザンカと散り椿_d0163696_22023653.jpg


一方、サザンカは花弁が全開に広がり、上向き気味になる。
ツバキとサザンカと散り椿_d0163696_22024454.jpg
散るときは花弁がばらばらにに落ちる。


もしかすると『散り椿』ではツバキとサザンカを取り違えているのではないか?
木村大作氏ともあろう監督が、このような初歩的なミスをするとは!
師匠筋に当たる黒澤映画の『椿三十郎』では、椿屋敷のツバキは、ちゃんとまとまって落ちていたではないか!!


「散り椿」の正体

気になって原作小説を読み返してみたところ、次のような文章が著されていた。(一部を抜粋)

 京の地蔵院の本堂脇にある椿は花が落ちず、花弁が一片(ひとひら)ずつ散っていく。このため、
 - 散り椿
 と呼ばれていた。
 地蔵院は豊臣秀吉の命によって京に移された。境内には秀吉が寄進した<五色八重散椿>がある。朝鮮出兵の際に加藤清正が持ち帰ったものだという。普通、椿は花ごとぽとりと落ちることから、首が落ちる様を思わせるとして武家に嫌われる。
 散り椿は花びらが一片一片散っていく。地蔵院の散り椿は、一木に白から紅までさまざま咲き分け、あでやかである。

おそれいった。
そんなこととはつゆ知らず、ツバキとサザンカを取り違えているのではないかと疑った私が恥ずかしい。
葉室麟氏は私の大好きな小説家であり、原作の小説もちゃんと読んでいたのにもかかわらず、肝心の部分を読み飛ばしていたのである。

ネットで調べると地蔵院は通称“椿寺”と呼ばれる実在の寺院であった。

サイトを見ると、初代は残念ながら1983年に枯れてしまい、現在の散り椿は二代目だが、それでも樹齢は120年だという。
写真を見ると、八重咲で花弁は大きく開いている。まるでサザンカのような花である。
もっとも、ツバキもサザンカも同じなかま(Camellia属)で、多くの栽培品種がある。サザンカ的なツバキがあってもおかしくはないだろう。
別のサイトでは、散り椿の見ごろ(散りごろ)は3月下旬から4月中旬とあった。そこから判断するとツバキ的である。
ぜひ一度、現地で“散り椿”を確かめてみたい。


エンドロールが気になった

映画『散り椿』のエンドロールは、出演者・スタッフの全員が自筆で署名する凝ったものであった。
背景には美しい花々が入れ替わりに登場する。
さすが映像にこだわる木村大作監督である。
と感心したのもつかの間… 花は帰化植物のオンパレードなのであった。
以下、登場した順に植物名を記させていただく。( )内は原産地と日本へ渡来したと考えられる時期。

  • キショウブ(欧州、明治)
  • イヌナズナ
  • ハハコグサ
  • スノーフレーク(欧州、昭和)
  • ナズナ
  • <植物名は不明>
  • ハルジオン(北米、大正)
  • フランスギク(もしくはマーガレットか?)(欧州、江戸末期)
  • ガクアジサイ
  • ショカツサイ(別名ムラサキハナナ)(中国、江戸)
  • ムラサキカタバミ(南米、江戸)
  • ヒルザキツキミソウ(北米、大正)
  • セイヨウタンポポ?(欧州、明治)
  • オオムギ
  • イネ
  • ドクダミ

エンドロールであり、あまりこだわる必要はないかもしれないが、本格的時代劇の最後は歴史ある在来種で飾っていただきたいところであった。


もう一つ余談ですが…

『帰化植物写真図鑑』(全農教)の巻頭に、黒澤監督の『七人の侍』で同志を募る場面の背景に帰化植物のブタクサが写るシーンがあったことが指摘されている。帰化植物の知識があればこのような誤りはなかったことが記されていた。
ずいぶん前のことだが、自分の眼で確かめようと七人の侍を見てみた。眼を皿のようにして見たのである。
たしかにあった。七人のうちの林田平八(千秋実)がスカウトされる場面である。薪割りをしていた平八の背景にブタクサが茂っていた。

それ以来、時代劇ファンである私は、とても忙しくなった。
河原の決闘シーンでは、背景のセイタカアワダチソウが気になって、せっかくの殺陣が眼に入らなくなる。
渡し船の船着き場では傍らのコセンダングサにくぎ付けとなる。
大河ドラマの冒頭シーンでは、のどかな春の川堤になんとハルジオンが咲いているではないか。
…といったぐあいに、心が休まるときがない。
時代劇ファンとしては、落ち着いて映像をたのしみたいものである。

2021年11月14日、報告:自然観察大学 事務局O




by sizenkansatu | 2021-11-14 22:11 | 植物 | Comments(4)
Commented by h6928 at 2021-11-14 22:31
「時代劇のあるある」ですね(^-^)
テレビの大河ドラマとかでも、その時代にそれが?
って見えるのはわりと普通にありますよね。
植物もそうですけど、
動物は動物プロダクションに依頼して「出演」しているせいか
「いくらなんでもそれが?」って
笑えるものもよく出てきますね。
まぁ、所詮ドラマだから良いと言えば良いのですけど(^-^)
Commented by sizenkansatu at 2021-11-15 06:07
> h6928さん
コメントありがとうございます。
動物でもあるんですね。気づきませんでした。
細かいことが気になるのは性分なのでしょうね。見ると心が波立ってしまいます。
h6928さんのように笑って見のがせるように修行をしなければ…

しかし、時代考証担当がいるのに、生物に関しても気配りがほしいところではあります。
Commented by miyabiflower at 2021-11-16 16:35
散り椿のお話、興味深く拝読しました。
そして時代劇など、帰化植物のオンパレードだったりするのですね。
時代考証の中に植物は入っていないのでしょうね。

アオツヅラフジの種の記事を投稿しました。
おもしろい種で驚きました。
sizenkansatuさんのブログへリンクさせていただきました。
教えていただかなかければ、そのまま放っておくところでした。
いつもありがとうございます。
Commented by sizenkansatu at 2021-11-16 18:57
> miyabiflowerさん
コメントありがとうございます。
こだわって電柱を抜いてしまうような監督もおられるようですが、
植物には無頓着な方が多いのではないかと。

アオツヅラフジはおもしろいですよね。
自分でも改めて観てみたので、近いうちに記事にさせていただきます。

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