ナラメリンゴフシとシギゾウムシ
文末に追記あり 2016.6.16
虫えい:ナラメリンゴフシ
5月3日、長野県でのこと。(毎度の月遅れ情報ですみません)
今回の話はちょっとややこしい話なので、ご承知おきいただきたい。
さて、5月3日、芽吹きの季節を楽しみながら山間の小道を歩いた。
その時に見つけたのがこれ。

普通「虫こぶ」といわれるが、専門家らしく「ちゅうえい」と呼ぼう。
周囲には同じような虫えいがたくさんあった。

この時期にこんな果実があるとは思えないから、やはり虫えいだろう。
一つ失敬して中を割ってみると…

後日「日本原色虫えい図鑑」で調べたところ、コナラの虫えいで、ナラメリンゴフシというものらしい。
(虫えいにはちゃんと和名がある)
漢字で書くと「楢芽林檎フシ」だろう。
同書によると、古くから知られた虫えいで大きなものは直径4cmにもなるそうだ。
だとすると、この蛹はナラメリンゴタマバチということになる。
1個の虫えいの中に多数の幼虫がいて、放射状にならんでいるらしいのだが、そこまで確認できなかったのは残念だ。
ナラメリンゴタマバチは、このあと5月下旬から6月に羽化し、地中の根に産卵する由。これをナラネタマフシというそうだ。
芽に虫えいをつくるのとは別に、次世代は根に虫えいを作って生活する。その次の世代はまた冬芽に産卵し、虫えいを作るということ。
つまり芽と根に交互に虫えいづくりを繰り返すのだという。しかもそれぞれは両性世代と単性世代だそうである。
なんとややこしい!!
ところで、写真の整理をしていて気付いたのだが、2枚目の写真に蜂の成虫が映っていた。
見るからにタマバチとは異なる寄生蜂である。
おそらく中のタマバチに寄生するのだろう。植物に寄生すして虫えいをつくる蜂と、その蜂に寄生する蜂… 蜂の世界はややこしい。
調べてみると、次にナラメリンゴフシの寄生蜂が紹介されていた。
※ 神戸・明石の虫ときどきプランクトン 「ナラメリンゴフシに産卵するオナガコバチの一種」 ⇒
同種かどうかは不明だが、素晴らしい虫の素晴らしい写真をぜひご覧いただきたい。
ミヤマシギゾウムシ(?)
虫えいを撮っていると、飛び入りがあった。


先端の大あごをどうやって動かすか?
動力源の筋肉はどこにあるのか?
答えは、山﨑秀雄先生が解明している。
ほとんど複眼だけの小さな頭部ではなく、筋肉は胸部にあって、口吻の中を通る長い腱で先端の大あごを動かすのだ。
このマジックハンドのような構造は、次の講演レポートに写真付きで紹介されている。
※ 自然観察大学室内講習会 「昆虫の口-形にはワケがある-」 ⇒
だが、ちょっと待て。
シギは嘴の長いシギのようだという名前だ。ゾウムシというのは鼻の長いゾウのようだということではなかったのか?
シギか、ゾウか、ややこしい名前である。
話を元に戻そう。
このシギゾウムシは、たまたまナラメリンゴフシにとまっただけなのかと思ったら、そうではないらしい。

シギゾウムシ特有のグリグリをはじめた。
(グリグリ:刺した口吻を中心に全身で左右に回転する。ゆっくりとした反復横跳びのよう)

こいつは面白い。
虫えいを果実と勘違いして産卵してしまったのだろう。
…と考えたら、さにあらず。
後日調べると、このゾウムシはナラメリンゴタマフシを狙って産卵するらしい。
※ ハンマーの虫のページ2 「ミヤマシギゾウムシ」 ⇒
※ てくてく日記 「ミヤマシギゾウムシの産卵」 ⇒
シギゾウムシの斑紋がはっきりしているのですぐにわかるだろうと、念のため種名を図鑑で確認しようと思ったが、考えが甘かった。
北隆館の原色昆虫大図鑑(第10版、昭和56年)で見ると、ミヤマシギゾウムシと並んで、ナツグミシギゾウムシというのが載っている。
よく似ていて、写真では判別できない。
ナツグミシギゾウムシの分布は本州・四国・九州だが、ミヤマシギゾウムシの分布は北海道とある。
そうなるとナツグミの方になるのか? しかしホストが違う。
う~む。悩ましい。
どなたかご存知の方は、ぜひご教示いただきたい。
ちなみに背面からの写真は…

余談ですが…
ネットで探っているときに、面白い話を見つけた。
※ あいの飼育ブログ「ミヤマシギゾウムシのジャンプ」 ⇒
そういえば、撮影できたと思ったら、いきなりファインダーから消えたのは、この習性によるものか?
<2016.6.16追記>
シギゾウムシの種名について、恐縮しながらも森本桂先生にこの記事をお送りし、ご意見をうかがったところ、次のようなコメントをいただいた。
……………………………………………………………………………………
コナラのムシコブのシギゾウムシは下記の種です。
Curculio koreanus (Heller)ミヤマシギゾウムシ
世界の大・中型のシギゾウの中で、ムシコブで幼虫が成育する例外的な種です。
写真は大変きれいで見事です。
シギゾウ類の大顎は、一般昆虫の大顎が左右から中央で噛み合うのに対し、大顎の外側が下方へ直角近くに移動して大顎が上下に動くだけになっており、噛み合うことは不可能です。大顎を前に伸ばした状態では、ちょうど錐の歯のようになり、これを産卵や吸汁植物の表面に当て、これを中心として体を左右に揺り動かして、吻をもみこみます。
頭部が前胸先端でよく動くように、複眼を含めて頭部は球状となり、円形器状の前胸先端の開口にはまり込んでいます。このようにして産卵孔をうがち、体を回転させて腹端から細長い産卵管を差し込んで1卵ずつ産みこみます。
クリシギゾウやツバキシギゾウのように大変長い吻をもつものでは、産卵管も長く、♀の吻長と産卵管は正の相関があります。
……………………………………………………………………………………
森本先生、ありがとうございました。
種名が判明したことだけでもたいへんにありがたいことであるが、そのうえほかにもご教示いただいた。
●虫えいで成育するという稀有な習性を持つこと!
(「ハンマーの虫のページ2」「てくてく日記」の記述は正しい)
それにしてもどうやってこの習性を身につけたのだろう? 彼らにはどんな進化の過程があったのか??
●大あごはニッパーのような機能ではなく、錐のように使う!
(写真を見て勘違いをしていた。お詫びして訂正します)
●口吻が長いシギゾウムシは同じ長さの産卵管を持つ。
(雄の口吻も長いと思うが、これは飾りにすぎないのか?)
今後、シギゾウムシを見かけたときの、観察の楽しみがぐっと拡大した。
2016年6月10日、報告:自然観察大学 事務局O
虫えいだけに産卵するミヤマシギゾウムシにはびっくりですが、
ゾウムシ類は形態だけでなくおもしろい生態のものが多いようです。
近日中に別のゾウムシの話もご報告する予定です。
そのときは見てやってください。
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