親愛なる、そのへんの植物-7 「メガルカヤ」
今回は、事務局Oさんの報告に引き続き、私もイネ科植物について報告します(観察地:岐阜)。
さわやかな秋空のもと、堤防草地でメガルカヤが生えているのを見つけました。 メガルカヤは、イネ科メガルカヤ属の多年草で、昔から利用されている草地でよく見られます。少なくとも帰化植物が多数生育しているような場所にはいない印象です。
ススキと同じく大型であり、束状に集まった小穂や、そこから伸びる長い芒(のぎ)が目立つので、同定が難しいイネ科の中にあって、比較的覚えやすい種のように思います。
秋と言えば、多くの植物が実をつけて、タネを落とす季節です。子孫を残すにはタネがちゃんと運ばれて、定着しなければなりません。花が虫を惹きつけたり、なるべく自家受粉しない工夫をするのと同じように、タネの定着の仕方にも、様々な工夫があると言われています。
メガルカヤにも工夫があると知って、早速観察してみました。
メガルカヤの実の部分を見てみると・・ なにやら複雑そうですが、拡大してみるとこんな感じになっています。 長い芒が出ているのが分かりますね。
ばらしてみると、芒はタネの部分に付いていました。 もう一度、芒に注目してみてください。(クリックして拡大できます)
芒がよじれているのに気がつきませんか?
おもしろいです。
なぜ、よじれているのでしょう。なにか役割があるのでしょうか・・?
調べてみると、芒には吸湿性があり、水分に触れたり湿度が高くなると伸び、乾燥するとねじれるそうです。下の写真は乾燥した状態なので、芒はねじれています。 「伸びたりねじれたりする部分(活性部分)」がねじれることで、芒に回転運動が生まれます。つまり、水分を含んでまっすぐになった部分が、次に乾燥する過程でねじれることで、芒が回転するのですね。
湿度が高くなったり低くなったり、水分状態が交互に変化すると、まるでドリルのように芒は回転することになります。タネの先端部分は尖っているので、土の上に落ちたタネは、そんな芒の回転運動によって、土の中にねじ込まれるのだそうです。
実際に、芒はどのように回るのでしょう。
芒の付いたタネをひとつ、洗面器の水の中に浮かべて観察してみました。
乾燥状態の芒はねじれています。眺めて待つこと7分ほど、芒の活性部分が徐々に伸び始め、それに合わせてタネが、ゆっくり、くるんと回りました。
続いて水から取り出してみると、みるみるうちに芒は乾燥し、活性部分がねじれていきます。ねじれることで、芒は円を描いて回転しました。
水から取り出した状態の写真です。
芒の活性部分には、すでに「ねじれ」が生じています。 乾燥してくると「ねじれ」はさらに強くなり、それに伴って芒がくるくると回り始めます
乾燥しきったところで、回転が止まりました。「ねじれ」は、ぐるぐるの状態です。
このように芒は回転し、タネを地中にねじ込むのですね。
こういった芒のメカニズムを持っている植物種は、他にカラスムギなど、焼畑や耕地といった人為的な攪乱が大きい場所に多いと言われています。タネは通常土壌の表面に落ちますが、耕されたりして裸地になってしまうと、他の植物による日陰がなくなり、表層の土壌がかなり乾燥してしまうからです。
タネが発芽し定着するために、水分は非常に重要です。
タネに付いた芒のドリル運動は、過酷な乾燥からタネを守り、できるだけ安全に定着するための工夫だと考えられます。
乾いた地表から、少しでも水分の多い場所=地中にタネを送り込むために、地表の「乾燥と湿潤を繰り返す」という性質を利用して芒を回転させ、タネを地中に埋めるのですね。
植物は動物と違って、基本的には定着した場所から動きません。だからこそ、まわりの環境との関わりはとても大きく、その場所で生活し繁殖していくために、様々な工夫をしています。逆に言えば、そのような工夫があるからこそ、その場所で生き残り、生活しているのだとも言えます。今回の観察を通して、あらためてそれがよくわかりました。
植物とまわりの環境との関わりに着目してみると、植物がなんとなくそこにいるのではないことがわかります。そこから発見する様々な工夫は、実に巧妙で感心させられることばかりです・・!
2012年10月22日、報告:自然観察大学 植物生態学部 S子
さわやかな秋空のもと、堤防草地でメガルカヤが生えているのを見つけました。
ススキと同じく大型であり、束状に集まった小穂や、そこから伸びる長い芒(のぎ)が目立つので、同定が難しいイネ科の中にあって、比較的覚えやすい種のように思います。
秋と言えば、多くの植物が実をつけて、タネを落とす季節です。子孫を残すにはタネがちゃんと運ばれて、定着しなければなりません。花が虫を惹きつけたり、なるべく自家受粉しない工夫をするのと同じように、タネの定着の仕方にも、様々な工夫があると言われています。
メガルカヤにも工夫があると知って、早速観察してみました。
メガルカヤの実の部分を見てみると・・
ばらしてみると、芒はタネの部分に付いていました。
芒がよじれているのに気がつきませんか?
おもしろいです。
なぜ、よじれているのでしょう。なにか役割があるのでしょうか・・?
調べてみると、芒には吸湿性があり、水分に触れたり湿度が高くなると伸び、乾燥するとねじれるそうです。下の写真は乾燥した状態なので、芒はねじれています。
湿度が高くなったり低くなったり、水分状態が交互に変化すると、まるでドリルのように芒は回転することになります。タネの先端部分は尖っているので、土の上に落ちたタネは、そんな芒の回転運動によって、土の中にねじ込まれるのだそうです。
実際に、芒はどのように回るのでしょう。
芒の付いたタネをひとつ、洗面器の水の中に浮かべて観察してみました。
乾燥状態の芒はねじれています。眺めて待つこと7分ほど、芒の活性部分が徐々に伸び始め、それに合わせてタネが、ゆっくり、くるんと回りました。
続いて水から取り出してみると、みるみるうちに芒は乾燥し、活性部分がねじれていきます。ねじれることで、芒は円を描いて回転しました。
水から取り出した状態の写真です。
芒の活性部分には、すでに「ねじれ」が生じています。
このように芒は回転し、タネを地中にねじ込むのですね。
こういった芒のメカニズムを持っている植物種は、他にカラスムギなど、焼畑や耕地といった人為的な攪乱が大きい場所に多いと言われています。タネは通常土壌の表面に落ちますが、耕されたりして裸地になってしまうと、他の植物による日陰がなくなり、表層の土壌がかなり乾燥してしまうからです。
タネが発芽し定着するために、水分は非常に重要です。
タネに付いた芒のドリル運動は、過酷な乾燥からタネを守り、できるだけ安全に定着するための工夫だと考えられます。
乾いた地表から、少しでも水分の多い場所=地中にタネを送り込むために、地表の「乾燥と湿潤を繰り返す」という性質を利用して芒を回転させ、タネを地中に埋めるのですね。
植物は動物と違って、基本的には定着した場所から動きません。だからこそ、まわりの環境との関わりはとても大きく、その場所で生活し繁殖していくために、様々な工夫をしています。逆に言えば、そのような工夫があるからこそ、その場所で生き残り、生活しているのだとも言えます。今回の観察を通して、あらためてそれがよくわかりました。
植物とまわりの環境との関わりに着目してみると、植物がなんとなくそこにいるのではないことがわかります。そこから発見する様々な工夫は、実に巧妙で感心させられることばかりです・・!
2012年10月22日、報告:自然観察大学 植物生態学部 S子
by sizenkansatu
| 2012-10-22 23:23
| 植物
|
Comments(4)
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sizenkansatu at 2012-10-23 13:33
S子さん。投稿ありがとうございます。
あいかわらずおもしろいですね。
メガルカヤは見たことがないのですが、メリケンカルカヤではどうなんでしょうね。
またたのしみができました。
事務局O
あいかわらずおもしろいですね。
メガルカヤは見たことがないのですが、メリケンカルカヤではどうなんでしょうね。
またたのしみができました。
事務局O
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S子
at 2012-10-26 13:53
x
こんにちは。S子です。
メリケンカルカヤには、メガルカヤやカラスムギのような太くて長い芒が見あたりませんので、「ドリル運動」はしないような気がします。
メリケンカルカヤの生育環境は幅広く、荒れ地から湿地まであるそうですが、やや乾燥したところに多いようですね。私がメガルカヤを見た堤防草地にもメリケンカルカヤはいました。
なので、乾燥からタネを守る働きがなにかあっても不思議ではありませんが、残念ながら、私は詳しいことはわかりません。
(調べてみましたが、ちょっとではわからず、申し訳ないです)。
メリケンカルカヤには、メガルカヤやカラスムギのような太くて長い芒が見あたりませんので、「ドリル運動」はしないような気がします。
メリケンカルカヤの生育環境は幅広く、荒れ地から湿地まであるそうですが、やや乾燥したところに多いようですね。私がメガルカヤを見た堤防草地にもメリケンカルカヤはいました。
なので、乾燥からタネを守る働きがなにかあっても不思議ではありませんが、残念ながら、私は詳しいことはわかりません。
(調べてみましたが、ちょっとではわからず、申し訳ないです)。
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S子
at 2012-10-26 13:54
x
<つづき>
メリケンカルカヤでまず思い浮かぶ特徴としては、定着というよりは散布の話になりますが、小穂に白くてフワフワした毛が多いことです。
この毛によって、タネは風に乗り、遠くまで運ばれるのだと思います。
メガルカヤのタネが、比較的、親個体の近くの土壌に落ちると思われるのに対し、メリケンカルカヤのタネは親から離れた場所まで飛んでいくので、親の生育していた環境とは違った場所、つまり乾燥した場所でないこともあると思われます。
メリケンカルカヤの生育環境が幅広いことからも、比較的どんな場所でも、水分などある程度の条件がそろえば発芽し定着できるのかもしれません。
そんな風に思いました。
メリケンカルカヤでまず思い浮かぶ特徴としては、定着というよりは散布の話になりますが、小穂に白くてフワフワした毛が多いことです。
この毛によって、タネは風に乗り、遠くまで運ばれるのだと思います。
メガルカヤのタネが、比較的、親個体の近くの土壌に落ちると思われるのに対し、メリケンカルカヤのタネは親から離れた場所まで飛んでいくので、親の生育していた環境とは違った場所、つまり乾燥した場所でないこともあると思われます。
メリケンカルカヤの生育環境が幅広いことからも、比較的どんな場所でも、水分などある程度の条件がそろえば発芽し定着できるのかもしれません。
そんな風に思いました。
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sizenkansatu at 2012-10-26 19:11
なるほど、納得です。
名前がカルカヤで似ているので、安易に考えてしまいました。
来年、カラスムギで確認してみたいと思います。
S子さん、ありがとうございました。
名前がカルカヤで似ているので、安易に考えてしまいました。
来年、カラスムギで確認してみたいと思います。
S子さん、ありがとうございました。
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