親愛なる、そのへんの植物-5 「ネムノキ」
今の時期、山裾や道沿いにちょっと注意を払ってみると、ピンク色のボンボンのような花が目立っているのに気がつきます。ネムノキです。
ネムノキは、マメ科ネムノキ属の木本で、高さは10mくらいに達する落葉樹です。暗くなると葉が垂れ下がり、小葉が閉じて合わさって、まるで眠っているように見えることが名前の由来です。
今回は、そのネムノキの花に注目してみたいと思います(観察地:岐阜)。
ネムノキの花は独特な形をしています。まるで美しい筆のように、まあるく広がっています。(注:花の下に見えるのは、つぼみです)
花のつくりはどうなっているのでしょう。
実は、花弁のように見えるピンク色の糸状のものは、おしべです。
ネムノキは、おしべの花糸が長く美しく発達して、花弁の代わりに虫を惹きつける役割をしています。
もう少し詳しく見てみると、ネムノキの花には、頂生花と側生花があります。
頂生花は、おしべが真ん中あたりまで合着していて、パイナップル頭のようになっています(真ん中の花ひとつ)。
おしべが飛び出している薄緑色の筒状のものが花冠で、頂生花の方が側生花よりも長いです。花冠の下の方には、同じく薄緑色の萼片がついています。
花を開いてみると、頂生花にだけ、子房のまわりにたっぷりと蜜が入っていました。
側生花も開いてみると、こちらにも子房はちゃんとあります。ただし、目立った蜜はありません。
蜜入り頂生花は、花序あたり1個から2個と側生花に比べてとても少ないわけですから、真ん中にある頂生花めがけて虫が来たところで、まわりの側生花の花粉も一緒に運んでもらうという“節約”戦略なのかもしれません。頂生花と側生花の配置といい、実によくできていると思います。
ちなみに、側生花のめしべとおしべは、こんな感じで構成されています。
頂生花と異なり、おしべは基部まで離生しています。
次に、ネムノキの自家受粉しない工夫についても観察してみました。
ネムノキは、両生花になります。めしべとおしべが同時に熟してしまうと、自家受粉の可能性が高くなってしまいます。
調べてみると、ネムノキは雄性先熟ということでしたので、さっそく確かめてみました。
開花直後は、若いおしべがひょろひょろと開いています。
めしべの姿は目立ちません。
葯は黄色で生き生きしています。
おしべがしおれてくると、めしべが目立つようになります。
めしべだけがピンピンと立っています。
そのときの葯は茶色くなってしわしわです。
このように、おしべが先に成熟して、花粉が運ばれてしまってから、めしべが成熟することで、自家受粉の確率を下げているのですね。
植物は、子孫を確実に残すために、ある程度の自家受粉をする場合もありますが、遺伝的多様性を残すためには、できるだけ他家受粉したいところです。
花のかたちからタイミングまで、繁殖には、まだまだ驚かされる工夫がいっぱいありそうです。
最後に、ネムノキは、道路が通ったり、伐採された跡地など、明るく開けた場所でよく見かけます。ネムノキは、そうした場所にいち早く定着し、他種が入ってくる前に一気に生長するパイオニア種と言われています。
道際などは痩せ地であることも多いと思われますが、マメ科であるネムノキは、根粒菌との共生関係によって、空気中の窒素を栄養分として得ることができます。こうした性質は、特に小さな頃には有利に働くかもしれません。
近くにいたネムノキの稚樹を引っこ抜いてみたら、根っこにちゃんと根粒が確認されました!
「変わった花だなー」と思ったことから始まった、ネムノキの観察でしたが、調べてみると学ぶことが次々と出てきて、奥が深いとあらためて実感しました。
この度も、読んでくださった方、どうもありがとうございました。
2012年7月6日、報告:自然観察大学 植物生態学部 S子
Commented
by
岩瀬 徹
at 2012-07-20 10:48

今回は、そのネムノキの花に注目してみたいと思います(観察地:岐阜)。
ネムノキの花は独特な形をしています。まるで美しい筆のように、まあるく広がっています。(注:花の下に見えるのは、つぼみです)

花のつくりはどうなっているのでしょう。
実は、花弁のように見えるピンク色の糸状のものは、おしべです。
ネムノキは、おしべの花糸が長く美しく発達して、花弁の代わりに虫を惹きつける役割をしています。
もう少し詳しく見てみると、ネムノキの花には、頂生花と側生花があります。
頂生花は、おしべが真ん中あたりまで合着していて、パイナップル頭のようになっています(真ん中の花ひとつ)。
おしべが飛び出している薄緑色の筒状のものが花冠で、頂生花の方が側生花よりも長いです。花冠の下の方には、同じく薄緑色の萼片がついています。

花を開いてみると、頂生花にだけ、子房のまわりにたっぷりと蜜が入っていました。

側生花も開いてみると、こちらにも子房はちゃんとあります。ただし、目立った蜜はありません。

蜜入り頂生花は、花序あたり1個から2個と側生花に比べてとても少ないわけですから、真ん中にある頂生花めがけて虫が来たところで、まわりの側生花の花粉も一緒に運んでもらうという“節約”戦略なのかもしれません。頂生花と側生花の配置といい、実によくできていると思います。
ちなみに、側生花のめしべとおしべは、こんな感じで構成されています。
頂生花と異なり、おしべは基部まで離生しています。

次に、ネムノキの自家受粉しない工夫についても観察してみました。
ネムノキは、両生花になります。めしべとおしべが同時に熟してしまうと、自家受粉の可能性が高くなってしまいます。
調べてみると、ネムノキは雄性先熟ということでしたので、さっそく確かめてみました。
開花直後は、若いおしべがひょろひょろと開いています。
めしべの姿は目立ちません。


おしべがしおれてくると、めしべが目立つようになります。
めしべだけがピンピンと立っています。


このように、おしべが先に成熟して、花粉が運ばれてしまってから、めしべが成熟することで、自家受粉の確率を下げているのですね。
植物は、子孫を確実に残すために、ある程度の自家受粉をする場合もありますが、遺伝的多様性を残すためには、できるだけ他家受粉したいところです。
花のかたちからタイミングまで、繁殖には、まだまだ驚かされる工夫がいっぱいありそうです。
最後に、ネムノキは、道路が通ったり、伐採された跡地など、明るく開けた場所でよく見かけます。ネムノキは、そうした場所にいち早く定着し、他種が入ってくる前に一気に生長するパイオニア種と言われています。

道際などは痩せ地であることも多いと思われますが、マメ科であるネムノキは、根粒菌との共生関係によって、空気中の窒素を栄養分として得ることができます。こうした性質は、特に小さな頃には有利に働くかもしれません。
近くにいたネムノキの稚樹を引っこ抜いてみたら、根っこにちゃんと根粒が確認されました!

「変わった花だなー」と思ったことから始まった、ネムノキの観察でしたが、調べてみると学ぶことが次々と出てきて、奥が深いとあらためて実感しました。
この度も、読んでくださった方、どうもありがとうございました。
2012年7月6日、報告:自然観察大学 植物生態学部 S子
by sizenkansatu
| 2012-07-06 23:23
| 植物
|
Comments(2)
S子さん、投稿ありがとうございました。
青空とネムノキの花っていいですね。
ネムノキの花はずっと気になっていたのですが、おかげさまですっきりしました。
でも、この花でマメ科とは…
根粒も見せていただいたし、果実だって立派な豆果だし、やっぱりマメ科なんですね。
青空とネムノキの花っていいですね。
ネムノキの花はずっと気になっていたのですが、おかげさまですっきりしました。
でも、この花でマメ科とは…
根粒も見せていただいたし、果実だって立派な豆果だし、やっぱりマメ科なんですね。
ネムノキの花の観察はたいへん面白い。
頂生花と側生花の違いはよく見たことがありませんでした。
雄しべ先熟のもことも写真でよくわかりました。
そうすると、花がよく目立つとき(雄しべがのびているとき)は、花粉の盛りを過ぎている(雄しべ期から雌しべ期への移行期)のかなと思います。
これまで漠然と見ていたことを、改めて知らされました。
頂生花と側生花の違いはよく見たことがありませんでした。
雄しべ先熟のもことも写真でよくわかりました。
そうすると、花がよく目立つとき(雄しべがのびているとき)は、花粉の盛りを過ぎている(雄しべ期から雌しべ期への移行期)のかなと思います。
これまで漠然と見ていたことを、改めて知らされました。
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