紀州の話-4
クマゼミ
紀伊白浜の三段壁と言われる海岸の岩壁。 マサキやトベラなどの低木が群落をなし、うるさいほどクマゼミが鳴いていた。
これは交尾中で右が雄。
すぐ後ろのクマゼミ(たぶん雄)がうらめしそうに横目で見ている。
とにかくいっぱいいて、波の音をかき消していた。
間近でクマゼミを見たのは今回初めて。眼の高さでよく観察できた。
これまで鳴き声は何度も聞いてきたのだが、高い樹上で見ることができなかったのだ。
こいつは鳴くときに左の翅を少し浮かせるようなしぐさをする。
翅や腹部のひねり方など、それぞれ個性があって、おそらく鳴き声も微妙に違うのだろう。
このクマゼミは全体が白っぽく見える。羽化したては微毛があるのだそうだ。
クマゼミというと黒光りのイメージだったが、あれは短期間ではげてしまったということらしい。(親近感!)
セミの中でも、クマゼミの鳴き声の大きさはトップクラスではなかろうか。
この岩壁では、打ち寄せる波の音もかき消す。
それにしてもセミの仲間は、小さい体のいったいどこからあんな大きな音が出るのか?
セミの腹部は中が空洞(!)になっていて、共鳴させることで大きな音になるということだ。 写真の胸板のような飴色のものは腹弁という器官で、この腹弁をはじめいろいろな仕組みがあるらしい。
鳴くことだけに特化した雄のセミは、何を考えてくらしているのだろう…
クマゼミはもともと九州中心に分布していたのが、近年(と言っても数十年前)西日本に広がり、最近では関東でも見られる。
事務所の若手スタッフに京都出身のものがいるが、彼女にクマゼミ情報を聞くと、子供のころ(20年くらい前)に急にクマゼミが増えた由。それまでは京都郊外ではアブラゼミが優占していたそうである。
もしかすると関東も何十年か後にはクマゼミの世界になっているのかもしれない…
ちなみにセミの分布確認は鳴き声を聞いたとか成虫を見ただけではだめで、幼虫の抜け殻(もちろん幼虫も可)によるそうだ。
余談ですが…
もうひとつ、彼女から教えられた “セミ爆弾” を紹介しよう。
セミ爆弾とは、路上でひっくり返っているセミのことで、死んだかと思って拾い上げた途端、 “ギャワワッ” と爆発的に鳴いて飛び去るセミのことを言うそうだ。
若者の言語感覚はたいしたものだ。
南方熊楠記念館で観た昆虫たち
紀伊白浜の南方熊楠記念館での話。
記念館の展示には粘菌の実物も用意されるなどたいへん興味深いものだったが、内容については公式HPをご覧いただきたい。
南方熊楠記念館 : http://www.minakatakumagusu-kinenkan.jp/
うれしい発見は熊楠がヘビィスモーカーだったことだ。
最近、喫煙者としてしいたげられ続けているので、力強い味方を得たような気がする。
海に面した高台の、その頂上の記念館から見た林地。 記念館へのアプローチとなる斜面には亜熱帯の植物など、見慣れない植物が移植されていた。
ジャングルのような多様な植物園のおかげか、わずかな滞在時間で面白いものが観られた。
ハネナガウンカの一種。
翅を開いたこの姿のまま、葉裏でじっとして動かない。
実物を見たのははじめてだが、奇妙な昆虫だ。
長い翅もさることながら、太く立派な触角が眼の下(写真では上)に突出て、先の方に感覚毛のようなものがある。(クリックして拡大でご覧いただきたい)
腹部は、頭部と胸部と同じくらいの大きさ。翅だけが異様に長い。
横にまわって全身を撮ろうとしたら飛び去ってしまった。(この姿で飛べる!)
ウンカの仲間だから植物を吸汁するのだと思うが、どんなくらしをしているのだろう。
そして長い翅はどんな役割がるのだろう。
複眼の下から伸びた触角は?
謎は深まるばかりだ…
もう一つ奇妙な昆虫。 アカヒゲベニトゲアシガというらしい。
漢字で書くと赤髭紅棘脚蛾だろうか。写真と比べるとその意味が分かる。
写真がよくないので紹介するのをためらったのだが、『みんなで作る日本産蛾類図鑑』 http://www.jpmoth.org/Stathmopodidae/Atkinsonia_leechi.html を見ると、“118年ぶりの再発見か?” とある。
2005年に、1988年以来なんと118年ぶりに発見された希少な蛾らしいのだ。
これは、みなさんに見ていただかねば!
“こんなの出しなさんな” と言われてしまいそうな写真だが、ご容赦いただきたい。
2005年の再発見以降は東北などでも見つかっているようだが、この蛾の生態や歴史についてご存知の方はぜひご教示いただきたい。
ベッコウクモバチがアシダカグモの仲間(たぶんコアシダカグモ)を捕らえて運んでいた。
偶然事務所を来訪された狩蜂のT先生に写真を見ていただくと、数年前まではベッコウバチ類とされていたが、数年前からクモバチ類と改められた由。クモを狩るのでクモバチ。
写真のように触肢をくわえて運ぶのが特徴だそうだ。
獲物が大きく重いので引きずるように運ぶ。
途中ときどき獲物を離し、あたりを確認するかのようにぐるりと巡回して、あやしいヤツ(私のこと)をじっと睨みつける。
私がビビったのを確認して、また獲物を運びはじめる…
※ 関連してご覧ください:『アシダカグモのお蔭です』 http://sizenkan.exblog.jp/12145359/
ところで…
T先生の40年間におよぶ狩蜂研究の集大成として、『狩蜂生態図鑑』(仮称)を作成中だ。
狩猟シーンの圧倒的な写真は、断片的に拝見したことはあるが、系統的にまとめて見られるというのはすごいことだ。2012年春の完成が楽しみだ。
なお、かつては狩人蜂(かりゅうどばち)と言われたものだが、最近はなぜか狩蜂(かりばち)と言われている。
2011年8月22日、報告:自然観察大学 事務局O
紀伊白浜の三段壁と言われる海岸の岩壁。
すぐ後ろのクマゼミ(たぶん雄)がうらめしそうに横目で見ている。
とにかくいっぱいいて、波の音をかき消していた。
間近でクマゼミを見たのは今回初めて。眼の高さでよく観察できた。
これまで鳴き声は何度も聞いてきたのだが、高い樹上で見ることができなかったのだ。
翅や腹部のひねり方など、それぞれ個性があって、おそらく鳴き声も微妙に違うのだろう。
クマゼミというと黒光りのイメージだったが、あれは短期間ではげてしまったということらしい。(親近感!)
セミの中でも、クマゼミの鳴き声の大きさはトップクラスではなかろうか。
この岩壁では、打ち寄せる波の音もかき消す。
それにしてもセミの仲間は、小さい体のいったいどこからあんな大きな音が出るのか?
セミの腹部は中が空洞(!)になっていて、共鳴させることで大きな音になるということだ。
鳴くことだけに特化した雄のセミは、何を考えてくらしているのだろう…
クマゼミはもともと九州中心に分布していたのが、近年(と言っても数十年前)西日本に広がり、最近では関東でも見られる。
事務所の若手スタッフに京都出身のものがいるが、彼女にクマゼミ情報を聞くと、子供のころ(20年くらい前)に急にクマゼミが増えた由。それまでは京都郊外ではアブラゼミが優占していたそうである。
もしかすると関東も何十年か後にはクマゼミの世界になっているのかもしれない…
ちなみにセミの分布確認は鳴き声を聞いたとか成虫を見ただけではだめで、幼虫の抜け殻(もちろん幼虫も可)によるそうだ。
余談ですが…
もうひとつ、彼女から教えられた “セミ爆弾” を紹介しよう。
セミ爆弾とは、路上でひっくり返っているセミのことで、死んだかと思って拾い上げた途端、 “ギャワワッ” と爆発的に鳴いて飛び去るセミのことを言うそうだ。
若者の言語感覚はたいしたものだ。
南方熊楠記念館で観た昆虫たち
紀伊白浜の南方熊楠記念館での話。
記念館の展示には粘菌の実物も用意されるなどたいへん興味深いものだったが、内容については公式HPをご覧いただきたい。
南方熊楠記念館 : http://www.minakatakumagusu-kinenkan.jp/
うれしい発見は熊楠がヘビィスモーカーだったことだ。
最近、喫煙者としてしいたげられ続けているので、力強い味方を得たような気がする。
海に面した高台の、その頂上の記念館から見た林地。
ジャングルのような多様な植物園のおかげか、わずかな滞在時間で面白いものが観られた。
翅を開いたこの姿のまま、葉裏でじっとして動かない。
実物を見たのははじめてだが、奇妙な昆虫だ。
長い翅もさることながら、太く立派な触角が眼の下(写真では上)に突出て、先の方に感覚毛のようなものがある。(クリックして拡大でご覧いただきたい)
腹部は、頭部と胸部と同じくらいの大きさ。翅だけが異様に長い。
横にまわって全身を撮ろうとしたら飛び去ってしまった。(この姿で飛べる!)
ウンカの仲間だから植物を吸汁するのだと思うが、どんなくらしをしているのだろう。
そして長い翅はどんな役割がるのだろう。
複眼の下から伸びた触角は?
謎は深まるばかりだ…
もう一つ奇妙な昆虫。
漢字で書くと赤髭紅棘脚蛾だろうか。写真と比べるとその意味が分かる。
写真がよくないので紹介するのをためらったのだが、『みんなで作る日本産蛾類図鑑』 http://www.jpmoth.org/Stathmopodidae/Atkinsonia_leechi.html を見ると、“118年ぶりの再発見か?” とある。
2005年に、1988年以来なんと118年ぶりに発見された希少な蛾らしいのだ。
これは、みなさんに見ていただかねば!
“こんなの出しなさんな” と言われてしまいそうな写真だが、ご容赦いただきたい。
2005年の再発見以降は東北などでも見つかっているようだが、この蛾の生態や歴史についてご存知の方はぜひご教示いただきたい。
偶然事務所を来訪された狩蜂のT先生に写真を見ていただくと、数年前まではベッコウバチ類とされていたが、数年前からクモバチ類と改められた由。クモを狩るのでクモバチ。
写真のように触肢をくわえて運ぶのが特徴だそうだ。
獲物が大きく重いので引きずるように運ぶ。
途中ときどき獲物を離し、あたりを確認するかのようにぐるりと巡回して、あやしいヤツ(私のこと)をじっと睨みつける。
私がビビったのを確認して、また獲物を運びはじめる…
※ 関連してご覧ください:『アシダカグモのお蔭です』 http://sizenkan.exblog.jp/12145359/
ところで…
T先生の40年間におよぶ狩蜂研究の集大成として、『狩蜂生態図鑑』(仮称)を作成中だ。
狩猟シーンの圧倒的な写真は、断片的に拝見したことはあるが、系統的にまとめて見られるというのはすごいことだ。2012年春の完成が楽しみだ。
なお、かつては狩人蜂(かりゅうどばち)と言われたものだが、最近はなぜか狩蜂(かりばち)と言われている。
2011年8月22日、報告:自然観察大学 事務局O
by sizenkansatu
| 2011-08-22 12:57
| 昆虫など
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