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自然観察大学ブログ

マダニの観察

何かと話題になるマダニ。
マダニの観察_d0163696_19132132.jpg
8月半ばのこの日、わたしは近所の霊園で野外観察をしていたのだが、昼過ぎに雨が降り出したので早めに切り上げた。帰宅後に着替えてごろごろしていると、私の膝の上にいるマダニを発見した。それを捕まえて紙の上に置いたのがこの写真だ。体長は3mm弱。

服について連れ帰ったマダニが、何かのときに足に乗り移ったのだと考えられる。
マダニは皮膚の薄くて柔らかい、股の間や首すじなどに移動して吸血するのだという。間一髪のところで気が付いてよかった。
ホッとしたところで、自然観察大学らしく「形とくらし」を考えてみよう。

調べるうちに、マダニの驚くべきことがいろいろと分かってきた。今回は文字が多いが我慢してお付き合いいただければありがたい。


マダニには頭が無い?

まずは前から観てみよう。
マダニの観察_d0163696_19135129.jpg
驚くべきことに、マダニには頭部が無いそうである。
昆虫の場合は頭部・胸部・腹部に分かれ、クモ類では頭胸部・腹部に分かれている。
マダニも一見するとクモ類と同じように見えるのだが、実は頭胸部にあたるところは「顎体部」という。

上の写真を少し拡大してみよう。
マダニの観察_d0163696_19142144.jpg
複眼のように突き出た部分があるが、これは眼ではない。
またその先には大あごのようなものがあるが、これも大あごではない。
これらは「触肢」という付属肢だというのだからびっくり。
大あごのような部分のすき間にわずかに見えるのが「口下片」という。口針にあたる部分で、ここで血を吸収する。(吸うのではなく、舐めるのに近いらしい)

マダニ類には眼も脳もなく頭部としての機能がないので、「顎体部」というらしい。
(つまり頭部に見えるところは全体が口器!?)

上の写真で後頭部(後顎体部)の後ろ向きの突起までが顎体部で、その後方はすべて腹部である。ということは、マダニには口とおなかしかないということになる。

前脚(第1脚)の付け根に大きなとげがあるが、吸血時に皮膚に食い込ませて固定するのだろう。(体ごと差し込むようなスゴイ取りつき方をする!)

ちなみに、腹部の背面には「背板」というやや硬い甲羅のようなものがあるのが、マダニ類の成虫の特徴なのだそうだ。(雌は約半分ほど、雄は全面を覆う)


驚くべき吸血のメカニズム


吸血する際に、血液が凝固しないような化学物質が唾液中に含まれているという。これは蚊も同じだ。
マダニの唾液にはさらに超絶機能があるという。

マダニの中のチマダニ属などは顎体部が短く(今回の写真のマダニもこれ)、寄生者の皮膚に安定して取りつくために、セメント様物質を分泌して固定をするというのだ。
食われたときに無理やりはがしてはいけないというのは、もっともなことである。

マダニは蚊に比べてはるかに長時間の吸血をする。マダニの種類や生育ステージによって異なるが、短い場合で十数分、長いものでは1か月(!)という。そのためにセメントで固定するというのだ。
飽血(おなかがいっぱいということ)が近づくと、今度はセメントを溶かす物質を分泌するという。

なんという機能だ。
口とおなかだけというシンプルな構造でありながら、このような高機能を持っているとは、じつに驚きである。
(同時に、これを解明した方に称賛をお送りしたい)


前脚がくせ者
マダニの観察_d0163696_19145222.jpg
ダニの仲間はクモ類同様に4対(8本)の脚があるが、観察したところでは前脚(第1脚)を歩行にはほとんど使わないようだ。
前脚をあげて、触角のようにゆらゆらと怪しげに動かしながら歩く。(ネコハエトリのクモの合戦のよう)

脚先を観てみよう。
マダニの観察_d0163696_19152211.jpg
先端は鋭いかぎ爪がある。写真では1本爪のようにも見えるが、普通の昆虫と同じ2本爪だ。
爪の付け根に肉球のようなものもある。これは昆虫の褥盤か爪間盤のようなものだろう。(参考:カメムシのつま先http://sizenkan.exblog.jp/19449532/

マダニ類は草むらの葉先にとまって、動物が通りかかるのを待つという。
信じられないほど長い間じっと獲物を待つのだから、チャンスは絶対にものにしなければならない。そのための前脚なのだ。


参考書籍とサイト

マダニの口器の構造は次をご覧いただきたい。(超絶構造!)
●フタトゲチマダニ/ムシをデザインしたのはダレ?
https://baba-insects.blogspot.jp/2017/07/blog-post_14.html

ほかに、今回の記事で参考にさせていただいたものは次のとおり。
●「日本ダニ類図鑑」(江原昭三、全国農村教育協会)
●「野外の毒虫と不快な虫」(梅谷健二、全国農村教育協会)
●マダニの生物学/PDF

https://www.bayer-pet.jp/vet/research_pdf/nomi_madani_57c.pdf
●マダニの遺伝学的な型別(同定)のために(初心者編)/PDF
http://www.vet.yamaguchi-u.ac.jp/member/takano/140421.pdf

予防・対策は次をご覧いただきたい。
●マダニ対策、今できること/国立感染症研究所
https://www.niid.go.jp/niid/ja/sfts/2287-ent/3964-madanitaisaku.html


ところで、
本記事の写真のマダニの種名が分かる方は、ぜひご教示いただきたい。
フタトゲチマダニではないかと思うが、いかがでしょうか。

関西以西ではSFTSが話題になっているが、他人ごとではない。
マダニ対策に帰宅後に着替えて風呂に入ることは、ぜひ心掛けたいものだ。

2017年8月22日、報告:自然観察大学 事務局O





by sizenkansatu | 2017-08-22 19:24 | 昆虫など | Comments(0)

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