自然観察大学ブログ

親愛なる、そのへんの植物-11 「ヘラオオバコの開花の仕方」

6月、道端や堤防、公園など、身近ないろんなところで、花を咲かせたヘラオオバコを見かけました。
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オオバコは踏みつけられる場所に多いですが、ヘラオオバコは草刈りされる場所に多いようです。
それぞれに適応した環境が異なり、それぞれに生育環境に合った工夫があるのだと思います。ヘラオオバコが草刈りに強いのは、ヨーロッパ原産の帰化植物であり、はるか昔から、草刈りが定期的に行われていた牧草地で生活していたためかもしれません。

今回は、そんなヘラオオバコの開花の仕方について、詳しくみてみたいと思います。(2012年6月28日に、事務局Oさんもヘラオオバコについて報告されています ⇒  )


● 花序について

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これは、ある時期のヘラオオバコの花序です。ヘラオオバコは穂状花序(すいじょうかじょ)で、花軸に柄のない花が並んでついています。一見わかりにくいですが…

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模式的に描くとこんな感じです。花軸は成長して伸びていきます。それにしたがって、花芽の数も増え、花序が長くなっていきます(このような花序は、無限花序と呼ばれ、穂状花序は無限花序のひとつです)。ヘラオオバコは、花軸の成長が著しいようで、花序はぐんぐん伸びます。


穂状花序では、基本的に花軸の下の方から順に花が咲いていきます。
花序の成長と開花の順番を模式図で示すと、こんな感じになります。
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● ひとつの花

次に、ひとつの花を見てみたいと思います。

ヘラオオバコは両性花ですが、ひとつの花には雌性期と雄性期があります。つまり、同じ花が、雌機能を持った時期と雄機能を持った時期に分かれています(これも自家受粉を避ける仕組みのひとつで、雌雄異熟と呼ばれています)。

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こちらが雌性期です。花柱が出ているのがわかります。d0163696_18184936.jpg


d0163696_18192591.jpg次に、これが雄性期です。花糸の先に、花粉がいっぱい詰まった葯があります。d0163696_18195130.jpg


どちらも地味な花ですね。
花冠はあるものの、小さくて色も目立ちません。香りもあまりない気がします。
ここから予想されることがあるのですが、何でしょう?

答えは “ヘラオオバコは風媒花ではないか?” です。
花の大きさや色、香りは、すべて虫など送粉動物の誘因効果になります。これらが発達していないと花粉を運んでくれる動物を引きつけることができません。
よって、質素な花のヘラオオバコは、風媒花ではないかと考えられます。


● 風媒花であるならば

風に花粉を運んでもらう場合、雌機能と雄機能の花の配置は、どのようになっているのが有利でしょうか。
(ヒメコウゾのブログ ⇒  を読んでくださった方は、お分かりかもしれませんね)

「雌機能が上、雄機能が下」です。
その理由は、雄機能の花が上ではたくさんの花粉が自然落下し、下にある雌機能の花が自家受粉しやすくなってしまうからですね。

ちなみに、風媒花は、雌性先熟が多いと言われています。まわりにまったく雌がいない状態で雄が花粉を出し始めても、せっかくの花粉が無駄になってしまうからかもしれません。花粉をつくるのにも、コストがかかりますからね。


● 開花の仕方を考えてみよう

ということで、ヘラオオバコの開花について、これまでの話をまとめてみると…

① 穂状花序で、下から順に開花していく
② ひとつの花は、雌性期から雄性期へと変化する(雌性先熟)
③ 花序の中の花の配置は、常に雌性期が上


以上、3つをまとめてイメージしてみると、どうでしょう。
規則性を考えると、開花の仕方がわかりやすいかもしれません。

それでは実際に、順を追って観察してみましょう。

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まずは、つぼみ。花序の下の方から、花が咲き始めています。

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次第に上へ上へと開花していきます。次々と咲いていく花は、はじめはみんな雌性期です。

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しばらくすると、はじめに開花した下の方の花が、雌性期から雄性期に変化します。

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そして、今度は次々と雄性期の花に置き換わっていくわけです。

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そのときも、常に「雌機能が上、雄機能が下」です。雄が雌を追い越すことはありません。こうして、雌の後を雄が追うように、開花は進んでいきます。

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雄性期の花は葯が飛び出て目立つので、開花している部分がリングのように見えます。リングが順々と上に登っていくのがよくわかりますね。

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花序の長さが伸びているのもわかります。ぐんぐん伸びて、こんなに長い花序になったものもありました。ところで、こうして順を追って花序を見ていくと、雄性期の下の茶色の部分が気になりますね。ここは何なのでしょう?

花は、花期が終わると実になります。
ヘラオオバコの花期が終わるというのは雄性期が終わる時です。
したがって、花序において、雄性期の後を追いかけるのは…?
結実期ですね。雄性期の下にある茶色くなった部分は、実になる部分です。
結実期のひとつの花を見てみましょう。d0163696_1848288.jpgd0163696_18482059.jpg
 
雄性期が終わって、しおれた花を分解してみると、ちゃんと子房が膨らんでいるのを確認できました。

このように、ヘラオオバコのひとつの花は 「雌性期 → 雄性期 → 結実」 と変化します。
つまり、ヘラオオバコの開花は、花が入れ替わるわけではないのですが、ひとつひとつの花の機能が段階的に変化することによって、花序の構成(内訳みたいなもの?)が変化するわけですね。

ヘラオオバコの開花の仕方は、いかがでしたでしょうか。
確かに複雑ですよね。そんなとき、その仕組みと、なぜそうなっているのかを考えてみると、イメージしやすい気がします。
植物の名前に加えて、特徴についてあれこれ考えてみる。すると、そのちょこっとのことで、その植物への親近感は大幅にアップするように思います。

2013年7月11日、報告:自然観察大学 植物生態学部 S子
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by sizenkansatu | 2013-07-11 18:48 | 植物 | Comments(6)
Commented by sizenkansatu at 2013-07-11 19:08
S子さん、ご投稿ありがとうございました。
今回はややこしい話で、労作でした。
とりあえずアップしましたが、私もよく読ませていただきます。
Commented by 岩瀬 徹 at 2013-07-16 11:02 x
S子さんの観察はいつも綿密で、写真も明快、よく理解できます。
観察会で、わかったようであまりよくはわからなかったというのがオオバコの花序の動きでしょう。

先日の観察会で気づいたのですが、オオバコが両性花であることを前提にしなければいけないでしょう。
これが案外落とし穴のようなものです。
(雄花、雌花と表現している本がありますが、これは論外です)
これを取り入れてうまく模式図ができるといいですが、さらに工夫を期待してもます。

いろいろな方もアイディアをいただけるといいですね。お待ちしています。
岩瀬
Commented by 飯島和子 at 2013-07-16 11:02 x
飯島です。
S子さんの投稿は、説明文、写真、模式図ともわかりやすく、感心しながら読ませていただきました。
「オオバコの花の観察授業」で活用させていただきたいと思います。

野外での観察会ではどの模式図と写真を用意するとわかりやすいのか考えてみました。
観察会のようなときには、少ない模式図に多くの情報を盛り込むことが必要になるかと思います。
そこで、S子さんの作成された穂状花序の右側の模式図の「つぼみ、花1,2,3、」を「つぼみ、雌性期、雄性期、結実」として、「ひとつの花」の説明をするとわかりやすいのではないかと思いました。前回の観察会で用意していただいた写真にこの1枚を加えると理解しやすいように思いますが、いかがでしょうか。
Commented by 山﨑秀雄 at 2013-07-16 11:26 x
山﨑です。
観察会で話を聞いて、単性花か両性花か気になっていたのですが、今回の記事と岩瀬先生のコメントから、両性花で納得しました。

雄性先熟か雌性先熟かの件は昆虫にもあります。
たとえばモモブトカミキリモドキの場合は春の成虫の出現に初めは雄が多く、終わりころは雌が多くなります。
カメムシの卵に付く寄生ハチでは雄が最初に羽化して、卵の上を歩きまわり雌が出るとすぐに交尾し交尾が終わると雌は飛び去ります。卵塊の寄生ハチは1雌からの産卵と考えられるので植物では自家受精に相当するでしょう。アブラムシの単為生殖に似ています。
Commented by kaika at 2013-07-16 20:07 x
私のように植物に関して全くの素人にも、非常にわかりやすく、
また興味をかきたててくれる記事で、たいへん楽しくためになりました。
自然観察大学はすごく充実していますね。
Commented by 植物生態学部 S子 at 2013-07-18 10:25 x
S子です。
みなさま、貴重なご意見、ご感想をありがとうございました。
これからも楽しく観察し、よい報告ができるようにがんばります。

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