江戸川べりの観察-14 うどんこ病の観察
エノキは河川敷などに先駆的に育つ、いわゆるパイオニア植物のひとつだ。
10月末のある日、そのエノキの葉裏が真っ白になっていた。
近寄ってみると小さな粒々がある。 …うどんこ病だ。
〝うどん粉〟はいわゆる小麦粉のことで、これをまぶしたように白くなるので 〝うどんこ病〟
白い粉の正体は、うどんこ病菌の菌糸と胞子(分生子または分生胞子と言う)だそうだ。
拡大すると表面に粒々があった。 これは子嚢殻(しのうかく、こまかく言うと閉子嚢殻)と言うのだそうである。黄色から橙色と成熟して、黒いのが完熟なのだろう。直径は0.2㎜強で、よく見ると脚立のような付属器(付属糸)ではなく、カッパの頭状になっている。 (写真をクリックすると拡大します)
この粒のまま飛散して越冬し、翌春、中から子嚢胞子を出して新しいエノキに感染するのだそうだ。
なお、子嚢殻ができるのは秋で、普段は前述の分生子で繁殖する。
ややこしい 〝うどんこ病菌〟
うどんこ病のことを調べてみると、いろいろとややこしいことが分かった。
ちょっと長いが、お時間のある方はお付き合いいただきたい。
●まず 『カビ図鑑』 (細矢剛ほか、全農教) で入門させていただいた。
うどんこ病菌は宿主植物を枯らすことなく、落葉するまで仲良く共存する。〝絶対寄生菌〟というそうだ。
植物とともに進化してきたためか、宿主植物とうどんこ病菌の種類は、組み合わせがほぼ決まっているらしい。
●では、どのくらいの種類が知られているのか…
『日本植物病名データベース』(日本植物病理学会、農業生物資源ジーンバンク) で調べると、各種植物のうどんこ病といわれる病名が405件あった。これに対し、病原菌の種類は判明しているだけで180種弱である。
十把一からげに 〝うどんこ病〟 と呼んでいるが、その正体は多種多様だ。
ちなみに、エノキには〝エノキうどんこ病〟と〝エノキ裏うどんこ病〟の2種が確認されている。
●さらにエノキうどんこ病、エノキ裏うどんこ病を調べよう。
『病害虫・雑草の情報基地』 で 『インターネット版 日本植物病害大事典』(岸國平、全農教) のp1116-1117に掲載されている。(閲覧には無料会員登録が必要)
病徴の写真からは両者の区別はつかないが、裏うどんこ病の解説に 「付属糸は閉子嚢殻の頭部に冠状に生じ…」 とあるので〝裏〟と判明した。
ちなみに、直径0.2~0.25mmの子嚢殻の中には16~33個の子嚢があり、さらにその中に3個(まれに2個)ずつの子嚢胞子が入っているそうである。
超ややこしい話ですが…
菌類のなかで、子嚢殻をつくるものを〝子嚢菌類〟という。
うどんこ病菌の中で子嚢殻が確認されたものは子嚢菌類であり、未確認のもの(あるいはもともとつくらないものもあるか?)は糸状不完全菌類(不完全菌類)に分類される。
うどんこ病菌は絶対寄生菌であり、人工培養はできないのだから、子嚢殻の確認は難しそう。
子嚢菌類と糸状不完全菌類の分類のレベルは、亜門 (門と綱の間)だという。
なんということか !
粒々(子嚢殻)が確認されると、そのときから所属の亜門が変わるとは !!
ミクロの世界でありながら、ダイナミックな世界を感じてしまった。
2012年11月8日、報告:自然観察大学 事務局O
10月末のある日、そのエノキの葉裏が真っ白になっていた。
近寄ってみると小さな粒々がある。 …うどんこ病だ。
〝うどん粉〟はいわゆる小麦粉のことで、これをまぶしたように白くなるので 〝うどんこ病〟
白い粉の正体は、うどんこ病菌の菌糸と胞子(分生子または分生胞子と言う)だそうだ。
この粒のまま飛散して越冬し、翌春、中から子嚢胞子を出して新しいエノキに感染するのだそうだ。
なお、子嚢殻ができるのは秋で、普段は前述の分生子で繁殖する。
ややこしい 〝うどんこ病菌〟
うどんこ病のことを調べてみると、いろいろとややこしいことが分かった。
ちょっと長いが、お時間のある方はお付き合いいただきたい。
●まず 『カビ図鑑』 (細矢剛ほか、全農教) で入門させていただいた。
うどんこ病菌は宿主植物を枯らすことなく、落葉するまで仲良く共存する。〝絶対寄生菌〟というそうだ。
植物とともに進化してきたためか、宿主植物とうどんこ病菌の種類は、組み合わせがほぼ決まっているらしい。
●では、どのくらいの種類が知られているのか…
『日本植物病名データベース』(日本植物病理学会、農業生物資源ジーンバンク) で調べると、各種植物のうどんこ病といわれる病名が405件あった。これに対し、病原菌の種類は判明しているだけで180種弱である。
十把一からげに 〝うどんこ病〟 と呼んでいるが、その正体は多種多様だ。
ちなみに、エノキには〝エノキうどんこ病〟と〝エノキ裏うどんこ病〟の2種が確認されている。
●さらにエノキうどんこ病、エノキ裏うどんこ病を調べよう。
『病害虫・雑草の情報基地』 で 『インターネット版 日本植物病害大事典』(岸國平、全農教) のp1116-1117に掲載されている。(閲覧には無料会員登録が必要)
病徴の写真からは両者の区別はつかないが、裏うどんこ病の解説に 「付属糸は閉子嚢殻の頭部に冠状に生じ…」 とあるので〝裏〟と判明した。
ちなみに、直径0.2~0.25mmの子嚢殻の中には16~33個の子嚢があり、さらにその中に3個(まれに2個)ずつの子嚢胞子が入っているそうである。
超ややこしい話ですが…
菌類のなかで、子嚢殻をつくるものを〝子嚢菌類〟という。
うどんこ病菌の中で子嚢殻が確認されたものは子嚢菌類であり、未確認のもの(あるいはもともとつくらないものもあるか?)は糸状不完全菌類(不完全菌類)に分類される。
うどんこ病菌は絶対寄生菌であり、人工培養はできないのだから、子嚢殻の確認は難しそう。
子嚢菌類と糸状不完全菌類の分類のレベルは、亜門 (門と綱の間)だという。
なんということか !
粒々(子嚢殻)が確認されると、そのときから所属の亜門が変わるとは !!
ミクロの世界でありながら、ダイナミックな世界を感じてしまった。
2012年11月8日、報告:自然観察大学 事務局O
by sizenkansatu
| 2012-11-08 20:28
| その他
|
Comments(2)
Commented
by
ナナフシななちゃん
at 2012-11-11 21:35
x
スーパー超ややこしい話
研究が進むにつれて、子嚢菌類に分類されていたものと不完全菌類に分類されていたものが、実は同じ菌の、有性生殖時代と無性生殖時代だったと判明するものがあります。
すると、若い研究者はまだ覚えていないせいか、「ひとつの学名に統一しよう」といい、熟練研究者は「ふたつの学名のままで」といい、学会でもめるそうですよ。
ひとつの種に対し、ふたつの学名をもつなんて・・・ややこしすぎる、菌類!
研究が進むにつれて、子嚢菌類に分類されていたものと不完全菌類に分類されていたものが、実は同じ菌の、有性生殖時代と無性生殖時代だったと判明するものがあります。
すると、若い研究者はまだ覚えていないせいか、「ひとつの学名に統一しよう」といい、熟練研究者は「ふたつの学名のままで」といい、学会でもめるそうですよ。
ひとつの種に対し、ふたつの学名をもつなんて・・・ややこしすぎる、菌類!
Commented
by
sizenkansatu at 2012-11-12 13:25
さすが、よくご存知でおられますね。
先日ある植物病理学の先生から学名をひとつにする話をうかがいましたが、スーパー超ややこしい話なので理解できず、今回記載しませんでした。
なんでも、今年その方針が決まって、新名称(学名)は早い者勝ちだとか…
菌学会はたいへんなことになっているんでしょうね。
先日ある植物病理学の先生から学名をひとつにする話をうかがいましたが、スーパー超ややこしい話なので理解できず、今回記載しませんでした。
なんでも、今年その方針が決まって、新名称(学名)は早い者勝ちだとか…
菌学会はたいへんなことになっているんでしょうね。
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