自然観察大学ブログ

粉塵とダニ

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写真はミカンハダニというダニ。ふるい話で気が引けるのだが、今から20年以上前の1990年、都内台東区で鉢植えの柑橘類から採集したものだ。
微妙に湾曲した毛がフォトジェニックと考えるのはひいき目だろうか。
コダクロームという超微粒子のフィルムで撮ったものだが、スキャナの性能が悪いので画質が今一つなのはご勘弁いただきたい。

ダニというと一般に血を吸うダニを連想するかもしれないが、ハダニ類は植物食のダニで、果樹や茶、その他多くの農作物(のうさくもつ)で重大な被害を及ぼす農業害虫とされている。
クモ綱ダニ目ハダニ科で、体長は雌で0.5mm弱、クモと同じ8本脚(4対)。植物体上に糸を張りめぐらしてその上を移動するところもクモに似ている。
葉に着くからハダニと言うのだろう。葉緑体を中心にかじり取るように吸収する。

注目していただきたいのは、写真のハダニの右手前に写っている黒い物体である。これは当時の都心に充満していたディーゼル車のまき散らした粉塵(煤、粒子状排出物)と思われる。
この写真の粉塵は葉面についているだけだが、当時東京都内で採集したハダニには必ず黒い粒が着いていた。

察しの良い方はもうお分かりかもしれない。
2000年に実施されたディーゼル車排ガス規制のことである。
記者会見の席でペットボトルの粉塵を振りまくパフォーマンスを覚えておられるだろう。当時は毎日ペットボトル12万本相当の粉塵が排出されていたというのだ。
強引な決定だと批判もあったが、黒煙を吐き出すトラックが消え、都心の空気が格段にきれいになったことは確かだ。

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こちらはミカンハダニを撮っている時に偶然見つけたもので、ヒゲブトハネカクシの幼虫。
ぬいぐるみやソフビの玩具的で愛嬌のある姿をしているが、これでも農業界ではハダニの天敵(捕食者)として、有力とされている。
画面下には体液を吸収され干からびたハダニの死体が転がっている。
この写真にも粉塵が点々と写っているが、さっきのハダニの写真よりも撮影倍率が低いので粒は小さく見える。

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別のハダニを撮った時に遭遇したハダニアザミウマ(ムツテンアザミウマ)。上が成虫で下が幼虫。彼らは次から次へとすごい勢いでハダニの卵を吸っていた。写真の白く光るものはみんな吸われて抜け殻になった卵だ。

当時ハダニの図鑑用にハダニの写真を撮りまくっていたのだが、都内で採集したものは粉塵が毛に付着して使い物にならなかったので、写真は全部捨ててしてしまった。今考えるとここで掲載できないのが惜しい。
その点捕食者は頻繁に観られるわけではないので、粉塵の写真が残っていたというわけである。

ハダニなどの微小生物にとって、また植物にとっても葉面に付着した粉塵がどれだけ迷惑なものだったことか…
当時の石原都知事の決定に、生き物たちはみなエールを送っていることだろう。

余談ですが…
前述のハダニアザミウマは捕食性だが、普通のアザミウマ(スリップス)類は植物食で、農作物の害虫とされているものが多い。ウイルス病の媒介者として大問題となるアザミウマもいる。
このアザミウマを食べるカメムシもいる。
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ヒメハナカメムシといって、素早く動いてアザミウマを串刺しにしてしまう。
それにしてもハナカメムシ科は肉食なのだが、どうしてハナカメムシというのだろう。
命名者が発見した時に花の上で吸蜜中だったのだろうか。

【参考:このブログのバックナンバーより】
吸蜜するカメムシ? http://sizenkan.exblog.jp/12457076/
カメムシの吸蜜 http://sizenkan.exblog.jp/12495921/

ハダニの話をしよう
ミカンハダニの繁殖力がどのくらいすごいかというと、1頭の雌がカンキツで44、ナシでは96も産卵するという。しかも1年間に13-14世代ということ(*)なので、計算すると1年間で572-1344倍ということになる。恐るべき数字だ。

*:『日本農業害虫大事典』(梅谷献二・岡田利承 編、全農教)よりhttp://www.zennokyo.co.jp/book/nogyo/nng.html

この繁殖力で葉を吸うのだからミカンのほうもたまらない。体長は0.5㎜弱とごく小さいが、すごい繁殖力により大勢で食害するので、葉は白くなってやがて落葉する。
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葉が点々と白くなっているのが、ミカンハダニが吸ったところ。表面に点在する赤いのがミカンハダニだ。
被害は樹勢が衰えるだけでなく、大発生すると果実も吸収するという。
繁殖力はたしかにすごいのだが、自然界はうまくできているもので、捕食者などの外的要因によって長い目で見ると密度が保たれている。ということは1344の卵から、親になって産卵する確率は1/1344ということになる。これまた驚くべき数値だ。

2011年3月8日、報告:自然観察大学 事務局O
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by sizenkansatu | 2011-03-08 19:41 | 昆虫など | Comments(0)

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