自然観察大学ブログ

ウシヅラヒゲナガゾウムシ、とっておきの裏話

以前このブログで書いたウシヅラヒゲナガゾウムシについて “つくば市:けんぞう” さんから興味深い情報をいただいた。

ウシヅラヒゲナガゾウムシ (正しい和名はエゴヒゲナガゾウムシ、以下 “牛面” と略す) は昨年7月のブログ 『妖怪変化か?』 で紹介した珍妙な姿の虫である。見てない方はまずその記事をチェックしていただきたい。 http://sizenkan.exblog.jp/11605716/

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ウジヅラヒゲナガゾウムシはヒゲ(触角)が長く、カミキリムシと誤認されてウシヅラカミキリとも呼ばれていた。
けんぞうさんは、淡水魚の釣り餌として売られている昆虫たちを調べていて、この虫に行き着く。“ちしゃ虫” の名でエゴノキの実に寄生した幼虫が高値で売られていたのだ(ちしゃはエゴノキの別名)。
さらに図鑑類でその珍奇な成虫を知ったけんぞうさんは、この成虫をぜひ見たいと考えた。そして釣具店で手に入れたのがこれ。
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表面に横長の短いすじがあるのは産卵痕らしい。
たのしみに飼育したものの、残念ながら成虫は見ることができなかったのである。
このちしゃ虫から成虫が出てこなかったのだ。けんぞうさんは昆虫飼育の専門家でもあるのだから、まことに不思議なことである。
氏の、まだ見ぬ牛面への憧れはつのるばかりであった。

時は過ぎ、その6年後のことである。
牛面の成虫をあきらめかけたころ、けんぞうさんの縄張りであるつくば市内の公園で毎年発生するという情報を、さるゾウムシ類の分類の専門家から得た。
期待に胸を膨らませながらも現地に通いつめ、探索したのであろう。そこで遭遇したのがこれ。
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エゴノキの若い果実に孔を開け産卵するウシヅラヒゲナガゾウムシ雌成虫である。
話に聞いたとおり、雌は眼が突出していない。正面から見るとさぞや牛面なのだろう。
“けんぞう”さんはこの発見のてん末について多くを語らないが、おそらく歓喜のあまりヒザが震えたに違いない。
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こちらは雄。おなじみ(?)の愛嬌たっぷりの姿。

どちらも本来は見事な写真なのだが、画面が荒れているのをご容赦いただきたい。
とくに産卵の写真は、かの 『インセクタリウム』(東京動物園協会発行)* の表紙を飾ったものなのだが…
けんぞうさんの名誉のために言い訳をさせていただくと、オリジナルがポジフィルムのためスキャニングで画質が劣化しているのだ。
安価なスキャナの、性能の限界なのである。業務用(製版等に使うスキャナ)は安くなったとはいえ数百万円以上するらしい。

*: 『インセクタリウム誌』 の表紙写真は、当時マニアの間で競って投稿されていた。
  残念ながら2001年から休刊。

d0163696_19104513.jpg
こちらは翌年同所で採集された幼虫。きれいな糞も確認できる。
きっちりと幼虫を撮っておられるのは、さすが研究者である。

“ちしゃ虫” と “牛面” の関係
昭和10年ころ、この釣り餌 “ちしゃ虫” は一頭50-60円相当の高値で販売されていたそうである。採集人にとっては格好のターゲットであり、釣り人には垂涎の餌だったのではなかろうか。
ところが驚いたことに、かつてはこの親子関係が分かっていなかったそうだ。それどころか、エゴヒゲナガゾウムシ(牛面)という昆虫の存在自体が、昆虫学者の間でもほとんど知られぬ希少な存在だったそうである。
どうやらこの虫は幼虫~蛹の期間が何年もかかるらしく。それが “ちしゃ虫” を買ってきても成虫が羽化してこない原因だったらしい。
幼虫態で長期間安定しているというその生態が、釣り餌として重宝された一因らしい。釣りに出かける間に成長して蛹や成虫になっては困るのである。
水中で牛面を見たら、魚のほうがびっくりするであろう。これでは釣り餌にならないことは、想像に難くない。

もう一つの不思議
それにしても、売品 “ちしゃ虫” の実の中にはほとんど100%生きた幼虫が入っているが、採集人がどうやって幼虫の有無やその生死を見分けているのか、その非破壊検査の手法も未だにナゾらしい。
けんぞう流にいえば釣り餌の業界は 「ナゾだらけのもう一つの虫屋の世界」 だという。

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今回の記事は、けんぞうさんに提供いただいた写真と、氏が過去に綴られた複数の文章をもとに再編集させていただいた。
“つくば市:けんぞう” さんについては 『自然観察大学のブログを拝見して』 http://sizenkan.exblog.jp/12115610/ で紹介している。知る人ぞ知る昆虫界の重鎮である。けんぞうさん、ありがとうございました。

【教えてください】
上の文中で “エゴノキの実” としたのは、果実か種子かどちらか分からないためである。
どんぐり(堅果)のように堅い殻(殻斗)に包まれた果実で、中に入っているのが種子、という印象なのだが…
どなたか植物に明るい方、ご教示いただけるとありがたいです。

2011年2月22日、報告:自然観察大学 事務局O


【教えていただきました】 2011.3.3追記
エゴノキの果実か種子かで、岩瀬学長からコメントをいただきました。
右下の comments をクリックしてご覧いただけます。
岩瀬先生、ありがとうございました。
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by sizenkansatu | 2011-02-23 19:18 | 昆虫など | Comments(2)
Commented by 岩瀬 徹 at 2011-03-03 16:22 x
自分で確かめたわけではありませんが、複数の図鑑でエゴノキは核果と書かれています。
とすると褐色のものは核に包まれた種子ということになります。
核は内果皮と種皮とが合わさって堅くなったものですから、種子だけを分けるのはむずかしいでしょう。
外果皮と中果皮は裂けて中の核が落ちるのでしょう。どんぐりの堅果とは違います。
Commented by 南十字星 at 2011-03-08 19:07 x
子どものころ、家のすぐ近くのエゴノキにウシヅラヒゲナガゾウムシが毎年発生していて、初めて見たときは本当に驚きました。それがエゴヒゲナガゾウムシに名前が変わってしまって、たとえばカブトムシがツヤクロマルムシに改名したような、なんだか虫の実態が半分になってしまったような悲しい気がしました。なんでまた改名なんかしたのでしょう?

同じエゴノキにはエゴシギゾウムシも発生していました(というか、よく来ていました)。エゴシギゾウムシ成虫の発生の方が、ウシヅラヒゲナガゾウムシ成虫の発生よりも早かったような気がします。

不思議なことに、エゴノキなんかどこにもあるのに、ウシヅラヒゲナガゾウムシもエゴシギゾウムシも、家の近くのこの木でしか見ませんでした。なぜだろうと思っているうちに引っ越しをしてしまったのですが、これはたまたまなのでしょうか? それとも両種の間には何らかの関係があるのでしょうか?

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